やっと封印が解けた大魔神は、正体を隠さずに凡人たちに力の差を見せつけます ~目覚めた世界はザコしかいない~

魔法少女どま子

運命の再会(真)―4

 そんな日常に変化が訪れた。

「さっき、見知らぬ魔物が街にやってきたらしいぞ」

 見舞いにきた父親が、そんなことを言ったのである。もちろん目は見えないから、どんな顔をして、どんなふうに言っていたのかはわからない。

「あらそうなの?」
 と母親が言った。
「どんな魔物なのかしら」

「んー、俺も聞いただけなんだけどな。緑色の髪で、かなり強いらしいぞ。洞窟にいた女の子を、人間から守ったらしい」

「まあすごい……! アリオスさんくらい強いんじゃないかしら?」

「いやあ。さすがにそれはないだろう」

 コトネは違和感を覚えた。
 緑色の髪。異常に強い。そして洞窟にいた……

 まさか。

 ここで察しがつかないほど、コトネは愚かではなかった。
 間違いない。彼だ。彼が目覚めたのだ。
 そう思った瞬間、コトネの胸中に、数年ぶりに生き物らしい感情が浮かんだ。

 会いたい。彼に。会いたい……

 コトネは父親の肩を掴もうとした。
 ――ねえ、彼はいまどこにいるの? ねえ、会わせて――
 そう声を出したかった。

 けれど。
 身体は本当に馬鹿だった。
 強烈な意志力に反して、五体はびくとも動かない。

 ――お母さん、私を連れていって、その彼のもとに!――

 もどかしかった。
 やっと彼に会えるかもしれないのに。なのに……

「あれ? あなた」
「ん?」
「見てよ。いま、コトネの指動いてなかった?」
「まさか。そんなわけないだろう」
「そうよね……気のせいだったのかしら」

 気のせいじゃない。気のせいじゃないよ……
 そんな心の声は、もちろん二人には届かなかった。




 そしてその日の夜、渋い声をした人間が病室に現れた。どうやらコトネの命を狙っているらしかったが、もはやすべてがどうでもよくなっていた。

 殺すなら殺せ。
 生きていても良いことなんかない。
 どうせ私は生きる価値のない魔物だ。
 殺してくれるなら、それは本望だ……

 だが数秒後、その考えは大きく変わることとなった。

「大魔神エルガー・ヴィ・アウセレーゼ……。もうここを突き止めるとは。さすがだな」

 聞き違えるはずがなかった。
 人間はたしかに、そう言っていた。

「その名前。誰から聞いたのかな」
「さあ。私がほいほい教えると思いますかな」
「……だろうね」 

 この純粋さと邪悪さが入り交じったような声。

 間違いない。
 ずっと恋い焦がれていた、彼の声だ。

 瞬間、コトネに大きな渇望とでも呼べる衝動が生じた。

 ――ここ! 私はここよ! 気づいて!――

 何度もそう心のなかで唱えた。
 懸命に動こうとした。

 けれど、指先がピクリとするだけで、一向に口は動かせない。
 エルは気づいてくれただろうか。
 私の声は届かなくても、私の姿を見れば、きっと思い出してくれるかな……

 でも。
 エルはなにも言ってくれなかった。 

 一度だけ苦しそうな声を発していたが、私の名前はついぞ一度も呼んでくれなかった。

 ――忘れちゃったのかな……
 コトネの心を絶望が支配した。

 考えてみれば当然だ。
 彼と約束を交わしたのは、もう十年も前の話。
 その間、彼はずっと魔王に封印されていたのだ。

 忘れていてもおかしくない。どこにでもいる、普通の女のことなど。

 滑稽だ。
 私だけが勝手に勘違いして、ひとりで踊っていただけみたい。
 もういい。
 殺すなら、いっそ、殺して……

  ★

「……これが、君の人生だったんだね」

 僕は治癒魔法を終え、横たわる彼女に優しく言った。 

「……え」
 彼女がほんのかすかな声を発する。
「あれ……なんで、私、喋れるの……?」

「治してあげたよ。知ってるだろう? 僕は大魔神。できないことはない」

「え……そんな……エル……くん?」
 ベッドの上で、彼女が少しずつ目を開いていく。
「覚えてる……の? 私のこと……」

 そんな彼女に、僕はふっと微笑んでみせた。

「やれやれ。まさか君のほうから約束を違える気かい?」
 そう言って小指を差し出す。
「十年後、絶対に、お互いを好きでいよう。――永遠の契りを」

「……あ」

 制御が効かなくなったんだろう。
 彼女の瞳から、大粒の涙が流れていく。

「忘れてたと思ってたのに……私の、こと、なんか……」

「馬鹿言え。僕はいまでも……えっと、その……そんなことより、十年前の契りを思い出してよ。小指」

「あ、うん……」

 まさに十年ぶりに、僕とコトネは、小指を絡め合わせた。 

「エルくん……エルくん、なんだよね……」

「そうだよ。他に誰かいるかい?」

「エルくん……やっと会えた……やっとお話できた……!」

 そうかすれ声を発したあと、コトネは僕の胸に飛び込んできた。

コメント

  • ノベルバユーザー284939

    リア充爆発しろ

    1
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