やっと封印が解けた大魔神は、正体を隠さずに凡人たちに力の差を見せつけます ~目覚めた世界はザコしかいない~
運命の再会(真)―2
僕は別に他人を拒んでいたわけではない。
魔王のように馴れ合いを嫌っているわけでもない。
一日楽しく過ごせれば、なんでもいいのだ。
そして楽しかった。コトネと話すことは。
ただただ面倒で、他人との接触を嫌ってきた僕が……コトネとは楽しく話せた。それはたぶん、彼女が汚れを知らない、純粋な子だったからだと思う。
対して、彼女も僕の命を狙うことはなくなった。
最初のうちは、僕の睡眠中を狙って攻撃しようとしていたみたいだけど……結局、なにもしないでやめていた。
なぜかは知らない。
僕が襲撃に気づいていたから、という理由でもなさそうだった。
そしていつの間にか、コトネは僕のことを《お兄ちゃん》と呼ぶようになっていた。
「まあ、おじさんじゃないだけマシだけどね」
《玉座の間》の壁に寄りかかりながら、僕は言った。彼女と関わるようになったおかげか、ずいぶんぺらぺらと言葉を紡ぎ出せるようになっていた。
コトネは同じく壁にもたれながら、小さい声で言った。
「おじさんなんて呼べないよ。だって……」
「え?」
聞き返すが、コトネは答えなかった。顔を赤くし、恥ずかしそうにうつむいている。
気まずい沈黙が降りた。
こんな雰囲気は初めてだった。
緊張をごまかす意味で、僕は話題を変えることにした。
「き、君はこれからどうするんだい? 魔王に命じられてるんだろう? 僕を殺せと」
「あ、えっとね、その、えっと」
コトネはなぜかしどろもどろになった。
「わ、私、もう、お兄ちゃんの命を狙わないことにしたの。だって、その……」
「へ?」
「好きに、なっちゃったから」
「…………!?」
僕は目を見開いた。顔が沸騰するのを感じる。
「な、なななな、なにを言ってるんだい!?」
「だって、しょうがないじゃん。本当、なんだもん……」
ぷすーと頬を膨らますコトネ。
そんな彼女を視界の端で眺めながら、僕の思考は爆発寸前に陥っていた。
好き……ということは、まさか、つき合うのか?
でも色々とまずくないか?
僕は大魔神で、コトネは一般の魔物。
しかも、相手は六歳児……
それらすべてを総合的に考えたうえで、僕は震える声を発した。
「もし、十年経っても君が同じ考えだったら……付き合おう。僕はたぶん、いや絶対、ずっと君のことが好きだから」
「ほ、ほんと!?」
コトネは目を輝かせた。
「わ、わたしも絶対、十年後もエルのことが好き! だから、約束……だよ!」
そう言って小指を差し出してくるコトネに、僕は苦笑して応じた。
――約束。
十年後、絶対に、お互いを好きでいよう……
永遠の契りを。
その直後だった。
「コトネよ。よくやった。おまえの任務は終了だ」
魔王ワイズが、突如として姿を現した。
魔王ワイズ。
全身が骸骨の魔物である。
頭部には王らしい煌びやかな王冠を載せている。他にも紅のマントと上着をまとっており、王者たる威圧を感じずにはいられない。
強い。僕がいままで相対したどんな者より。
――だが、だからどうした。
僕は大魔神。
王をも超える存在。
神を殺そうとする不遜な王など、軽く蹴散らしてくれよう。
そこまで考えて、僕ははっとした。
隣にはコトネがいる。僕と魔王が戦ったら、一般の魔物であるコトネは余波だけでも死んでしまう。
僕の動揺を見抜いたのか、魔王ワイズはくぐもった笑いを発した。
「ククク……あまり期待せずにそのガキを派遣したが、予想外の働きをしてくれたようだな。これはいい」
「お、お兄ちゃん……」
コトネが震える瞳で僕を見上げる。
「わ、わたしのことは気にしないで。はやく魔王を……」
「馬鹿を言わないでくれ。できるわけないだろう? 君を殺すなんて」
「で、でも、このままじゃ……」
僕はふっと笑った。 
けっこう満足だった。僕のこれまでの半生が。
もともと、生に執着はない。大魔神はかなり長生きできるようだが、僕は長寿を求めているわけじゃない。
――どこかで適当に死ねれば、それで本望なのだ。 
諦観の笑みを浮かべた僕に、コトネはなにかを感じ取ったらしい。僕の胸にしがみつき、悲痛な声を発した。
「駄目! なに考えてるの! 駄目よ、あなただけ……!」
必死に喚く彼女の頭を、僕はぽんと叩く。
それを見て、魔王ワイズは満足げに頷いた。
「みずから死を選ぶか。それもよかろう。しかし貴様は腐っても大魔神。わしの力では、貴様を殺すことまではできぬ」
「じゃ、どうするつもりだい? 魔法防御力、できるだけ下げてあげるけど?」
「こうするのだ!」
魔王ワイズの叫び声と同時に、僕は深い睡魔に襲われた。
――これは、封印……!
なるほど。殺せないなら、せめて僕の動きを封じるつもりか。考えたな……
混濁する意識のなかで、コトネの悲鳴にも似た声が聞こえた。
――約束だからね。たとえ魔王に引き裂かれても、わたしたちはずっと一緒!――
地面に伏せる寸前、僕は最後の力を振り絞って、こう答えた。
――ああ、僕も誓おう。君を一生忘れない――
魔王のように馴れ合いを嫌っているわけでもない。
一日楽しく過ごせれば、なんでもいいのだ。
そして楽しかった。コトネと話すことは。
ただただ面倒で、他人との接触を嫌ってきた僕が……コトネとは楽しく話せた。それはたぶん、彼女が汚れを知らない、純粋な子だったからだと思う。
対して、彼女も僕の命を狙うことはなくなった。
最初のうちは、僕の睡眠中を狙って攻撃しようとしていたみたいだけど……結局、なにもしないでやめていた。
なぜかは知らない。
僕が襲撃に気づいていたから、という理由でもなさそうだった。
そしていつの間にか、コトネは僕のことを《お兄ちゃん》と呼ぶようになっていた。
「まあ、おじさんじゃないだけマシだけどね」
《玉座の間》の壁に寄りかかりながら、僕は言った。彼女と関わるようになったおかげか、ずいぶんぺらぺらと言葉を紡ぎ出せるようになっていた。
コトネは同じく壁にもたれながら、小さい声で言った。
「おじさんなんて呼べないよ。だって……」
「え?」
聞き返すが、コトネは答えなかった。顔を赤くし、恥ずかしそうにうつむいている。
気まずい沈黙が降りた。
こんな雰囲気は初めてだった。
緊張をごまかす意味で、僕は話題を変えることにした。
「き、君はこれからどうするんだい? 魔王に命じられてるんだろう? 僕を殺せと」
「あ、えっとね、その、えっと」
コトネはなぜかしどろもどろになった。
「わ、私、もう、お兄ちゃんの命を狙わないことにしたの。だって、その……」
「へ?」
「好きに、なっちゃったから」
「…………!?」
僕は目を見開いた。顔が沸騰するのを感じる。
「な、なななな、なにを言ってるんだい!?」
「だって、しょうがないじゃん。本当、なんだもん……」
ぷすーと頬を膨らますコトネ。
そんな彼女を視界の端で眺めながら、僕の思考は爆発寸前に陥っていた。
好き……ということは、まさか、つき合うのか?
でも色々とまずくないか?
僕は大魔神で、コトネは一般の魔物。
しかも、相手は六歳児……
それらすべてを総合的に考えたうえで、僕は震える声を発した。
「もし、十年経っても君が同じ考えだったら……付き合おう。僕はたぶん、いや絶対、ずっと君のことが好きだから」
「ほ、ほんと!?」
コトネは目を輝かせた。
「わ、わたしも絶対、十年後もエルのことが好き! だから、約束……だよ!」
そう言って小指を差し出してくるコトネに、僕は苦笑して応じた。
――約束。
十年後、絶対に、お互いを好きでいよう……
永遠の契りを。
その直後だった。
「コトネよ。よくやった。おまえの任務は終了だ」
魔王ワイズが、突如として姿を現した。
魔王ワイズ。
全身が骸骨の魔物である。
頭部には王らしい煌びやかな王冠を載せている。他にも紅のマントと上着をまとっており、王者たる威圧を感じずにはいられない。
強い。僕がいままで相対したどんな者より。
――だが、だからどうした。
僕は大魔神。
王をも超える存在。
神を殺そうとする不遜な王など、軽く蹴散らしてくれよう。
そこまで考えて、僕ははっとした。
隣にはコトネがいる。僕と魔王が戦ったら、一般の魔物であるコトネは余波だけでも死んでしまう。
僕の動揺を見抜いたのか、魔王ワイズはくぐもった笑いを発した。
「ククク……あまり期待せずにそのガキを派遣したが、予想外の働きをしてくれたようだな。これはいい」
「お、お兄ちゃん……」
コトネが震える瞳で僕を見上げる。
「わ、わたしのことは気にしないで。はやく魔王を……」
「馬鹿を言わないでくれ。できるわけないだろう? 君を殺すなんて」
「で、でも、このままじゃ……」
僕はふっと笑った。 
けっこう満足だった。僕のこれまでの半生が。
もともと、生に執着はない。大魔神はかなり長生きできるようだが、僕は長寿を求めているわけじゃない。
――どこかで適当に死ねれば、それで本望なのだ。 
諦観の笑みを浮かべた僕に、コトネはなにかを感じ取ったらしい。僕の胸にしがみつき、悲痛な声を発した。
「駄目! なに考えてるの! 駄目よ、あなただけ……!」
必死に喚く彼女の頭を、僕はぽんと叩く。
それを見て、魔王ワイズは満足げに頷いた。
「みずから死を選ぶか。それもよかろう。しかし貴様は腐っても大魔神。わしの力では、貴様を殺すことまではできぬ」
「じゃ、どうするつもりだい? 魔法防御力、できるだけ下げてあげるけど?」
「こうするのだ!」
魔王ワイズの叫び声と同時に、僕は深い睡魔に襲われた。
――これは、封印……!
なるほど。殺せないなら、せめて僕の動きを封じるつもりか。考えたな……
混濁する意識のなかで、コトネの悲鳴にも似た声が聞こえた。
――約束だからね。たとえ魔王に引き裂かれても、わたしたちはずっと一緒!――
地面に伏せる寸前、僕は最後の力を振り絞って、こう答えた。
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