闇の王

雪桜 尚

廃れた魔王城と七つの大罪

「ショウ様、ここが魔王城です」

今、俺の前には巨大な城がそびえたっていた。

「おっきいなー」

それが俺の感想だった。

今、語彙力低っと思ったやつ、怒らないから出てきなさい。
だってさ、いきなり女の子にお姫様抱っこされたと思ったらさ、でかい城に連れていかれて、これが魔王城ですって言われても、そんなたいそうな感想を言えるわけないじゃん!
はぁ、はぁ、俺は誰に対して言い訳をしているのだろうか?

「何を惚けていらっしゃるのですか?ほら、行きますよ」

ルナが俺の手を引いて歩き出す。

「待てよ」

いきなり手を引かれたため、足がもつれたが、なんとか立て直して歩き出した。
そして、魔王城の威圧的な扉を開ける。
そこには、たくさんの魔王の配下が頭を垂れる。
ということはなく、雑草が伸び放題になった庭が俺たちを出迎えてくれた。

「うわっボロボロだな……」

少し離れれば魔王城は、あの厳格な雰囲気を取り戻すが、近くから見ると、廃墟のようだった。

「なあ、ルナ?前に魔王がいたのって何年前?」
「そうですね……400年ほど前でしょうか」

だとすれば、これほどボロボロなのも頷ける。
このあと、魔王城の中を見て回ったが、人っ子一人、いや魔族っ子一人いなかった。
そして今俺とルナは、魔王の玉座とか言う、椅子の前にいる。
あの、RPGで魔王が座っているあれだ。

「とりあえず、ショウ様を正式に魔王として復活させますので、この玉座に座ってください」
「復活?」
「はい。現在ショウ様は、女神の忌々しき力で能力が減衰しています。その力を解放するのが、魔王の玉座です。また、これに座れば、魔大陸にいる配下にも、復活が伝わります」
「へー」

終焉魔法なんて恐ろしいものがあるのに、まだ力が半減してるとかどんだけ強いんだよ。
本当に俺にそんな力が眠っているのかどうかは甚だ疑問だが、魔王の玉座に腰かけた。
刹那、俺の中で鎖が切れたような感覚があり、力が溢れ出してくる。

「なんだ……これ」

暫くすると、力が溢れ出る感触がなくなる。

「流石はショウ様です。まさかこれほどまでに潜在能力が凄まじいとは……」
「これってそんなにすごいの?」
「もちろんです!!既に先代並みの力はあると思います」
「そんなにか?」

俺は疑問に思い、ステータスを開く。

名前:ショウ=タネカワ 性別:男 種族 ハーフデビル
職業:魔王

HP  9999 
MP  9999 
ATK  9999
DEF  9999

<スキル>
火魔法 水魔法 風魔法 土魔法 闇魔法 終焉魔法 始祖魔法
剣術 体術 

呪印カース
魔眼 魔獣使役モンスターテイム 生物使役クリーチャーテイム  魔族生成クリエイト・デビル 念話  自動回復

<称号>
女神に挑む者 最強の王 

ステータスが大幅強化されていた。

「まあ、驚くのも納得できるステータスだな……」
「そんなに凄かったんですか?」
「多分な。全部9999だった」

それを伝えると、ルナは目を大きく見開いた。

「9999ってそれ本当ですか?」
「ああ、嘘をつく理由がないだろ。他にも、カースが六つに、魔法系のスキルが七つ。称号が二つある」
「ショウ様、貴方は正真正銘最強の魔王です」

どうやら、俺TUEEEEEEらしい。

「それじゃあルナ、魔王城を掃除するぞ!」
「掃除だ。こんなに古びた城に住みたくはないからな」
「わかりました。この不肖ルナ、全身全霊で掃除に取り掛からせていただきます」

ルナは、早速掃除に取りかかろうとする。

「あ、ちょっと待って!流石に二人で掃除は大変だろ?カースで魔族を生み出すからちょっと待ってろ」
「え?ショウ様も掃除をするんですか?」
「当たり前だろ?魔族はできるかわからないけど……」

ステータスを開き、魔族生成クリエイト・デビルをタッチする。
すると、脳内にクリエイト・デビルの使い方が流れ込んできた。

「よし、使い方は分かったな。魔族生成クリエイト・デビル

カースの名前を唱えると、体から何かをごっそりもっていかれたような倦怠感が俺を襲う。
目の前には、黒い霧のようなものが渦巻いている。

「はぁ、はぁ、はぁ、後はこれに俺の血を垂らせば完成だ」

親指を噛み、傷をつける。そして流れてきた血を黒い霧に垂らす。
黒い霧が一瞬膨張したかと思うと、すぐに収縮し今度は、人の形を成す。
俺とルナはその様子を固唾を飲んで見守っていた。

「ショウ様、これは一体?」
「さっき言ってた魔族だろう……きっと」

俺とルナは、生成された魔族を見て驚きを隠せないでいた。
なぜならその魔族はどう見ても、幼女・・・だったからだ。

「んにゃぁ」

かわいらしい声を出し、幼女が目を開ける。

「パ、パ?」
「「は?」」

確かにこの幼女は俺のことをパパと言った。パパと言ったのだ。
大事なことだから二回言った。
俺とルナが呆けていると、また幼女が口を開く。

「パパとこっちがママ?」

今度は、ルナを見てそんなことを言った。

「ショウ様、これは一体?」
「さ、さぁ?」

こればっかしは俺にもわからなかった。確かに俺のカースによって作り出された魔族なのは間違いないだろう。さっき魔眼でステータスを確認したが、確かに種族は魔族になっていた。

「もしかしたら、失敗したのかもしれない。も一回やってみようか?」
「私、ダメな子?」

上目づかいで俺の目を見てくる。その瞳がうるんでいるものだから、俺もルナも言葉を失ってしまった。

「お前はダメな子じゃないよ。俺の大事な娘だ」
「はい、そうです。あなたはダメな子なんかじゃありません」
「ありがと、パパ、ママ!」

幼女が俺に飛びついてくる。

「うわっと」

いきなりだったせいで、バランスを崩して倒れてしまう。
しかし、満面の笑みを浮かべているそいつを見るとやはり何も言えなくなってしまった。

「そういえば、名前は?」
「名前?パパが付けて!」

やはり名前はない様だ。
しかし、人の名前など付けたことが無いためどうやって決めたらわからない。

「なあ、ルナ。どんな名前がいいかな?」
「そうですね……プリムローズなどいかがでしょうか?」
「プリムローズか……いいじゃないか。お前は今日からプリムローズだ」
「プリムローズ?うん!私の名前はプリムローズ」

本当にうれしそうにプリムローズは笑った。

「俺がパパで、ルナがママなら夫婦になるのかな?」

俺がポツリとつぶやくと、ルナの顔が真っ赤に染まった。

「な、ななななな何を言っているのですかぁ」
「はははは、ごめんごめん。それじゃあ、掃除を始めたいところだけど、さすがにまだ少ないな……」

やはり、三人でこのだだっ広い魔王城の掃除は骨が折れるだろう。
俺は、それから三十分くらいひたすら魔族を作り続けた。



~三十分後~

「「「「「「「「魔王城の掃除、全力で行わせていただきます!!!」」」」」」」」

俺の前には、何十、何百とも知れない魔族が傅いていた。
初めは疲れたらやめようと思っていたのだが、全く疲れないので、少し作りすぎてしまったのだ。
プリ以外は皆例外なく男だった。ごついおっさんや、執事風の男など、風貌は様々だが。

「ああ、それじゃあ全員掃除に取り掛かってくれ」
「「「「「「「「は!」」」」」」」」

大量に魔族が自分の割り当てられた掃除場所へと向かっていった。
俺とルナ、プリに執事風の魔族、オルセンは、ただ魔王城の掃除が終わるのを待つという大変暇な時間になってしまった。

「なあ、ルナ?この椅子に座ったら正式に魔王として復活するって言ったけど、正式ってどういうことなんだ?」
「魔王として正式に復活すると、あの国にいた王族どもに魔王として討伐対象にされます。他にも、各地にいるモンスターが凶暴化したり、古参の配下が魔王場に出向いたりします」
「へぇ~、そのその古参の配下ってこっちから集めたりできる?」
「はい、出来ますがどうして?」
「いや、魔王が配下の顔を覚えていないってのもどうかと思って」
「わかりました、そう言うことであれば緊急招集をかけておきましょう」
「ありがとう」

しばらくすると、俺に念話が届いた。

『庭の草むしり班、終了致しました』
『分かった。そのまま魔王城の外壁の掃除を頼む』

この念話をきっかけに、様々な場所から念話が届く。

『執務室班、終了しまいた』
『浴室班、終わりました』
『地獄の訓練室、終わりました』

おい、最後のどこだ!そんな恐ろしい名前のとこ掃除を頼んだ覚えはない!

『終了したところは、一度俺のところに帰ってきてくれ』
『『『『『『『『は!』』』』』』』』

念話を飛ばしてから一分もたたないうちに、魔族集団が集結する。

「掃除お疲れさま。今日からは身を粉にして働いてくれ。今日は解散してくれ」
「「「「「「「「は!」」」」」」」

一堂に会した魔族が、それぞれの居住区に帰っていく。
勇者を迎え撃つには、まだまだ戦力が足りそうにないな。

「パパ?どうしたの怖い顔して?そんな顔してちゃダメなんだよ!」

プリに頬を軽く抓まれる。
軽くプリの頭をなでる。なんとなく、心の靄が晴れた気がした。

「ありがとう、プリ」

一瞬、何でお礼を言われたのか分かっていないようだったが、すぐに頬を緩めた。

「さてと、飯にするか」
「分かりました。私が準備いたしましょう」

オルセンが厨房へ向かう。

「はぁ、今日は本当に色々あったな……」

ほんのちょっと前まではただの高校生だったのに、魔王になってしまったのだから人生は何があるか分かった物じゃない。

「お疲れでしたら、夕食が出来るまでお休みしてはいかがですか?」
「いや、まだ休まないよ。後七体魔族を作らなきゃいけないからな」
「「七体?」」

ルナとプリが首をかしげる。その動きが完全にシンクロしていたから、本当の親子じゃないこと思ったほどだ。

「ああ、七体だ。ルナは、七つの大罪って知ってるか?」
「はい。初代魔王様が生み出した最強の魔族たちですよね?」
「ああ。それを今から作ろうと思ってな」
「は?」

ルナは、何を言っているのかわからないといった表情を浮かべる。

「ああ、ごめん。話が唐突過ぎたな。俺の持っているスキルの中に始祖魔法ってのがあって、その中に、七つの大罪ってのがあってそれで七つの大罪を作れるっぽいんだ」
「なるほど……っていうわけないでしょうがぁ!!!」
「まあ、まあ、落ち着いて。始祖魔法、七つの大罪」
「ああ、発動しちゃった……」

初めて魔族を作った時のような倦怠感が俺を襲う。しかし先ほどのそれよりもひどい。
立っているのがやっとなくらいである。
ビキビキと空間に亀裂が出来、その中から七体の魔族が姿を現す。

「傲慢のルシファー」
「憤怒のサタン」
「嫉妬のレヴィアタン」
「怠惰のベルフェゴール」
「強欲のマモン」
「暴食のベルゼブブ」
「色欲のアスモデウス」
「「「「「「「我ら七人そろって」」」」」」」

七つの大罪?が大きく跳躍する。そして、ビシィッとポーズを決める。

「「「「「「「七つの大罪」」」」」」」

さながら、日本で日曜日に放送している戦隊もののようである。

「それで?貴様が俺たちを、ぐべらっ」

変な声を上げて、部屋の端まで吹き飛ばされる。ルシファーを殴ったのは、勿論ルナである。

「七つの大罪如きが、ショウ様を貴様などと呼んでいいと思っているのか?」

ルナが、ルシファーを睨みつける。

「申し訳ない。ルナ殿と言ったか?うちの馬鹿が失礼なことをした」

前に出てきたのは、暴食のベルゼブブだった。

「別に構わないよ。俺もそんなことで一々怒るほど狭い器はしていないさ。でも、ルナやプリを傷つけるようなことがあればその時は……」

全身から殺気をにじみださせて告げる。

「殺すぞ」
「りょ、了解した」
「ルナもそう怒らないでくれ」
「わかりました」

ボロボロになった体で、ルシファーが起き上がる。

「申し訳ないことをした」

ルシファーも俺に対して頭を下げる。

「かまわないさ、それで?俺の配下になってくれるのか?」
「それ自体はやぶさかじゃないんだが、我らに勝ったものの配下にしかなれんのだ」
「わかった。全員まとめて表に出ろ」

俺は七つの大罪を連れて庭に行こうとする。

「お、おいちょっと待て。別にしてにするのは一人でいいんだぞ?」
「全員相手にした方が格の違いが判るだろ?」
「そっちがいいならばいいが……」
「ショウ様、お気をつけて」

ルナやプリは、俺の勝利を信じて疑わないようだ。

「それじゃあ、はじめようか」



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