僕は吸血鬼になれない

巫夏希

第9話 エピローグ

ここからはエピローグ。
というよりもただの後日談。
どうやら吸血鬼になると内側で隠れていた気持ちが外に噴き出すらしい。……即ち、いつの間にか僕は日向に恋をしていた、ということになるのかもしれない。僕はいまだにそれを真実とは受け入れられないが、周りからすれば『むしろなぜ今まで気づかなかった』という一言に尽きる、とのことだった。
冨坂はあの後姿を消した。吸血鬼にならないと宣言した僕に価値がないと思ったのだろう。懐中時計と資料はそのまま僕のものになった。彼曰く、そんなものいくらでもあると言っていた。彼は何を目的にそんなことをしたのだろうか――まあ、今はそんなことを考える必要なんてないのかもしれないけれど。


「ちょっと、どこ余所見しているのよ?」


探偵部の部室は文芸部のそれを間借りしている。だから、部室を利用できるのは文芸部がお休みの火曜日だけ。今日は週一回の部室でのミーティング、というわけだ。
冨坂が学校を出て行ってから、探偵部の存続が危ぶまれた。当然だ、部員一名の部活なんて部活じゃない。先生の言葉も尤もだった。
だからというわけじゃないが、僕はこうして部員になった。二人目の探偵部員。うん、響きとしては上々。


「さて、それじゃ今日のミーティング始めるわね。今日は……うーん、まあ、特になし!」
「ええっ? 特になし?」


日向から聞いた言葉を、僕は思わず反芻してしまった。耳を疑ったからだ。
対して日向は笑みを浮かべながら頷く。


「ええ、何もなし。だから、帰りにアイスクリームでも食べましょう? 美味しいアイスクリームショップを見つけたのよ。もちろん、あんたの奢りね」
「えー、そりゃないよ」
「嘘つけ、顔は笑っているぞ」


ばれたか。
……というわけでとても幸せな日常を送っているわけであって。クラスメイトの叶木からは「どうせくっつくと思っていた」とか言っていたので、どうやら既定路線だと思っていたらしい。
まあ、それもいいだろう。
テンプレート通りのハッピーエンドも、たまには悪くない。
きっと僕は、吸血鬼になれない。
彼女の笑顔を見ると、そういう結論に僕は至るしかない。僕はそう思った。





終わり

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