異世界転生を司る女神の退屈な日常

禿胡瓜

第140話 「後処理」

 
「お馬さん大丈夫ですか!?」


 骸獣スカルビーストが動かないことを確認して、お馬さんの元へ駆け寄る。
 白目を剥いたままその場に立ち尽くしている。
 結界からはみ出すように描いていた魔法陣に触れ、結界を消す。


「まだ幻覚を見てる状態ね……。
 放っておくと、暴れだすかもしれないわ」

「正気に戻す魔法は使えるかい?」


 以前の正気を失ったグレンを思い出す。
 あれは怖かった。


「解幻の魔法よりも、一つ試してみたいことがあるわ」

「パームちゃん、こんな時に実験ですか!」

「今後の為よ!
 ……ベルタ様は、触れるだけであらゆる魔法を無効化したわ。
 ベルタ様と似ているアナタならどうにかできるかもしれない」


 ベルタ、天空人の長か。
 天空人に出来て、私に出来ないことはない!……きっと。


「やってみます!」


 白目を剥いたままのお馬さんに手を伸ばす。
 半信半疑で、動かない首筋にそっと触れた。

 ……

「ダメみたいね」

「ちょ、ちょっと待ってください」


 よくよく考えてみたら、一度グレンのことを正気に戻したことがある。
 あの時は確か……ビンタした。
 そう、ビンタだ!


「治れぇ!」


『ペチン』という音が、夜空に響く。
 お馬さんは痙攣した後、地面に倒れた。


「お馬さん!?」

「リッカ! アナタなんてことを……!」


 やってしまった。
 お馬さんは、地面に倒れたまま脚を動かす。


「どうしましょうグレンさん!」

「待ってね……たぶん大丈夫だ。
 幻覚の最中にしたかった動きが、遅れてやってきてるんだ」


 お馬さんの脚が更に忙しく動いた後、ピタッと止まった。
 よく見ると、もう白目じゃない。


「お馬さん、大丈夫ですか?」


(オコシテ……オコシテ……)


「あ、起こしてって言ってますよ。
 パームちゃん、ちょっと手伝ってください」

「自分で起き上がれなくなったの? マズいわね」


 パームと共に、横に寝ている馬の背中を押してやるがビクともしない。


「うぐぐ……ダメだ! グレンさんも手伝ってください」

「わかった」


 グレンが籠手を外し、馬の背中に手を添えようとした瞬間……。
 馬が何事もなかったように、スクッと立ち上がった。


「……」

「……立ちましたね」

「立てるじゃん」


 馬はその場に足を折りたたみ、目を瞑った。
 あ、寝るんだ。


「僕たちも寝ようか」

「……そうね」

「リッカ、浄化魔法をお願い出来るかい?」


 よく見ると、グレンの服が血で汚れている。
 私の手もだ。

 ウェ~と思いながら、浄化魔法を唱えた。
 服と一緒にお肌の調子も整えてくれる万能魔法だ。


「死体……の側で寝るのは嫌ですよねぇ。
 どうしましょうか」

「本来なら、警告の為にそのままにしておくんだが……。
 結構臭うからね」

「リッカの魔法庫に入れればいいじゃない」

「はぁ、それが一番手っ取り早いですよね」


 先ずは私が殴り飛ばした骸獣スカルビーストに触れ、魔法庫に入れた。
 ついでにお馬さんの周りに結界を張る。
 さっきよりも窮屈にしておいた。

 次に、グレンの斬った骸獣に近づいた。


「うわぁ、グレンさん滅多切りですね」


 バラバラ殺人の現場だ。
 魔法庫に入れるのがしんどい。


「斬れ味バツグンだったよ。
 君は鍛冶屋泣かせだね」

「今は私が泣きたいですよ、めんどくさい。
 これ、血の跡は消えないんですから……」


 せっせこ死体を片付け、最後に自分たちの周りに魔法陣を張った。
 骸獣の悪臭はもうしない。


「朝日が昇るまであとどれくらいですかねぇ」

「さぁ、でも少しでも寝ておかないと明日が大変だ」


 パームは既に寝息を立てていた。
 あんなことがあったのに、よく寝れるなぁ。

 いつ朝日が昇るのか、ソワソワしながら寝袋に潜り込んだ。

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