異世界転生を司る女神の退屈な日常

禿胡瓜

第139話 「魔法使いの真髄」

 剣を低く、下段に構える。
 鎧は身に着けていない。防御は捨てた。
 何故なら、リッカの創ってくれた剣を信頼しているからだ。

 目の前の三体、後方の一体、馬を助けるのならばもっと簡単な方法があった。
 結界は魔法を通す。
 安全に骸獣スカルビーストを討伐するならば、先ずは結界の中から三体を攻撃すれば良い。
 けれど、あえてそうしなかった。

 これからの為、リッカに戦闘の経験を積ませたかった。
 そして何よりも……僕が斬りたかったからだ。


「ゼロ!」


 リッカの掛け声と共に、一気に駆け出した。
 最初の一体は、一撃で仕留める!

 結界の消えたことに気が付いていない真ん中の骸獣に突っ込んだ。
 走って来た勢いを回転に利用した、下段から超大振りの一撃。回転切りだ。
 不意打ちだから成せる、隙だらけの攻撃。
 手ごたえは……『なかった』。


「なっ!?」


 そのまま連撃しようと思ったのに、驚いて後退を選んでしまった。
 まるで空を斬ったようだった。

 斬った骸獣を見ると、空間がズレるようにして上半身と下半身が別れを告げていた。
 斬れてた。斬れ味が良すぎて斬った感覚がないんだ。

 二体の骸獣が、威嚇なのか仲間を失った悲しみなのか、雄叫びをあげて僕に突っ込んできた。

 これは……余裕だな。
 剣を片手で構え、骸獣を迎え撃った。


 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


 やることは単純だ。
『殴る』。ただそれだけ。
 失敗する理由はない!

 接近する私に気が付いた骸獣スカルビーストは、威嚇の声を上げる、
 怖い! 怖いけど『顎』を狙うには向き合うしかない。

 懐に飛び込もうとする私に合わせて、骸獣が右腕を振り上げる。
 女神の眼をフルに活用して、振り下ろす攻撃に備え。

 鋭い爪の生えた手は、迷いなく私の顔を狙っていた。
 ゆっくりと腕の軌道を見ることが出来るが、身体の動きが追い付かない。
 懸命に身を屈め、大げさに骸獣の一撃を避けた。

 既にクサい骸獣の懐に入り込めた。
 後は、私が拳を振り上げるだけ!

 ムキムキの腕を『想像』する。
 私の手にピッタリだった籠手が、ギチギチと音を発てる。痛い。
 逞しい脚で踏み込み、そのまま一気に拳を振り上げた。


「うりゃあああ!」


 私の拳は、狙った通り骸獣の顎に叩きこまれた。
 バキバキと音を発て、髑髏の顔にヒビが入る。
 骸獣は身体を浮かしながら吹き飛び、背中から地面に落ちた。

 骸獣が起き上がってくる様子はない。
 勝った! ノックアウトだ!

 両手を上げながら振り返り、勝利を宣言すると、ドン引きした顔のパームが居た。


「アナタ……武闘家だったっけ?」

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