異世界転生を司る女神の退屈な日常

禿胡瓜

第134話 「白昼の花火」

 
 お馬さんは道中、私の言うことをしっかり聞いてくれた。
 そのおかげで、車両から出ずに目的の野営地点までたどり着くことができた。
 時折すれ違う人たちが、運転手の居ない私たちの馬車を奇怪な目で見ていたのが懐かしい。

 野営地は、街道から少し離れた川沿いにある小さなスペースだ。
 今日は私たち以外利用者が居ないらしい。


「リッカ、私のお店で燃えてたやつ、持ってるわよね?
 それ、ここら辺に出してもらっていい?」

「おーけーです」


 地面の小さなくぼみに、パームの家で回収した魔道具を取り出す。


「あちっち」


 既に火柱を上げていた魔道具に少し驚く。
 火柱を噴射しながらくぼみにすっぽりと収まった。


「これ、火力高すぎませんか?
 花火ですよこれ!」

「逆よ逆、上下逆さまなの!」


 そんなことをいまさら言われても、火柱を上げる魔道具に近づけない。
 あたふたする私たちを見かねて、グレンが火柱に近づいた。


「グレンさん危ないですよぅ。
 お水をかけちゃいましょう?」

「たぶん……大丈夫」


 グレンが籠手を着けたまま火柱に手を伸ばす。
 そのまま火柱を手で押さえると、魔道具をひっくり返した。


「わ、凄い。熱くないんですか?」

「耐火の陣が組み込まれてるんだ。
 ちょっと熱いかなって感じ」


 正しい向きになった魔道具は、地面に火柱を押し当てる。
 くぼみに火が沿い、まるで焚き火様になった。


「耐火の陣! ちょっと見ても良いですか?」


 グレンから籠手を受け取る。
 さっきまで火を直接触っていたはずなのに、僅かな暖かさしか感じない。


「あれ? もしかしてリッカ耐火魔法知らないの?
 へぇ~……」

「な、なんですかパームちゃん。
 そもそも魔法陣自体、私にとって新しい技術なんですよぅ」


 女神の眼を使って籠手をじっくりと眺めてみる。


「……陣はどこですか?」

「防具に描かれる陣は、ほとんど内側にあるわ。
 傷などによって魔法陣が削れないようにね」

「はえ~」


 籠手の中を覗いてみると、確かに魔法陣があった。
 ちょうど手の甲にあたる部分に描かれている。

 紙とペンを取り出し、魔法陣を模写してみた。


「パームちゃん、これであってますか?」

「へぇ、よく写せたわね。
 ……少し違うところがあるわね。
 ペンを貸してもらっていい?」


 パームが私の魔法陣に修正点を加える。


「これで完璧よ。
 ただ、あくまでもこれは『道具用』の耐火魔法だから注意してね」

「人に使えないってことですか?」

「名目上はそうなってる。
 使えないことはないんだけど、失敗する恐れがあるわ。
 失敗したらどうなるかは、グレンのほうが詳しいんじゃないかしら」


 焚火で調理を始めていたグレンが振り向いて答えた。


「この世の終わりじゃないかと思うくらい、寒くなる」

「……らしいわ。
 耐火の魔法は、熱に反応して温度を下げる魔法なのよ。
 失敗すれば通常の温度でも反応してしまって、無限に温度を下げようとするわ」


 一歩間違えれば、火傷を防ごうと思ったらカチコチになってしまうということだ。
 興味深い。


「ご飯できたよー。
 リッカ、青いリュックからお皿を取り出してもらっていいかい」

「はいはいー!」


 パームは補助魔法に詳しそうだから、空いた時間を見つけて教えてもらおう。

 久々に夜空の下で食べるご飯は、特別に美味しかった。

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