異世界転生を司る女神の退屈な日常

禿胡瓜

第130話 「隠居旅」

 
『なごみ亭』は、海鮮を中心にした素朴な飯屋だった。
 生鮮食品を保存することが出来ないこと世界では、海鮮料理は港の特権らしい。

 といっても、私は生の魚料理があまり好きではないということが分かった。
 植物由来とは違う淡白な味が口に合わないようだ。


「リッカそれ食べないなら頂戴!」


 パームが私の答えを得る前に、魚の切り身を口に放り込んだ。

 食後にグリーンティーを飲みながほっと一息ついていると、グレンが口をひらく。


「北行きの馬車がなかったから、馬車自体を買ったよ」

「はぇー、羽振り良いですねグレンさん」

「ただ、売れ残りの馬だから何か問題があるのかもしれない。
 歩いていくよりは良いと思ったし、何とかなるさ」


 最近全然使っていないが、動物との意思疎通はお手の物だ。
 馬をうまく扱うリッカちゃんを見せて驚かせてやろうと思う。


「じゃあ今日これからお店とか見て回って良いかしら?
 ライバル店の視察をしたいわ」


 パームの提案にグレンは眉を寄せて腕を組んだ。


「うーん、僕は宿から出ない方が良いと思う。
 大陸会の一件は話したよね?」

「リッカから聞いたわ。
 魔法使いのおじさんがベッドに乗りながら襲い掛かって来たんだっけ」

「それだけ言われるとしっかり話が伝わっているのか気になるところだけど……。
 とりあえず、殺されかけたのは間違いない。
 正直、いまこうして滞在しているのもとても危険なんだ」

「そこまで言うのなら分かったわ。
 どうせしばらく休業してるんだし……」


 パームがしぶしぶと了承する。


「それにしても、本当に『大陸会』なんて存在しているのね。
 噂では聞いたことがあったけど、子供を怖がらせる為のお話だと思っていたわ」

「反撃の出来ないパームちゃんが襲われたらお終いですね!」

「笑えないわ……」


 両手で身体を抱いて身震いする。
 だが、いままでパームが『大陸会』と遭遇せずに生きてこれたのなら、案外しょぼい組織なのかもしれない。


「とにかく、宿屋で待機してもらうんだけど、リッカにはやってもらいたいことがあるんだ」

「おぉ、なんですか?
 電気マッサージとかもできますよ!」

「えっとね……僕の新しい剣を創ってほしいんだ」


 グレンが腰にぶら下げている剣をチラッと見る。


「長く使ってきたから、だいぶがきてるんだ。
 買いに行き辛い状況でもあるし、君の創る物はからね」

「なるほどなるほど!
 お安い御用ですよグレンさん!
 目に物見せてあげます!」


 誰かにお願いされて『想像』するのは初めてかもしれない。
 燃えてきた!腕が鳴る!

 剣といっても、単純な見た目だと満足できない。
 柄を十字架にしてみたり、刃の部分を稲妻状にしてもおもしろいかもしれない。
 全体的に光を放つやつとかも良いかも!


「……パームにはデザインとか見てほしいんだけどいいかな?」

「まかせて。
 リッカだけだったら神話に出てきてもおかしくない派手な剣を創りそうだと思ってたのよ」


『なごみ亭』を出て宿屋に辿り着くまで多くのデザイン案が浮かんだ。
 自分の着る服のデザインとは違い、人が使うものだと案外ぽんぽんとイメージが湧いてくる。
 グレンにはぜひともカッコいい剣を持ってほしいものだ。

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