異世界転生を司る女神の退屈な日常

禿胡瓜

第129話 「知らない贈り物」

 
 グレンの言う通り、昼過ぎにはナイーラ港に辿り着いた。
 船着き場に船を停め、行きの時と同じように怖いおじさんに尋問されると思いきや、私たちの顔だけみてすぐに通してくれた。


「入港の時はチェックしないんですね」

「ライン街に行くのが特別なのさ。
 あとは、個人船で身元がすぐに分かるってのもあるね」


 ライン街を見てきたせいか、比較的ナイーラ港は人が少なく寂しく感じた。
 それでもにぎやかな街であることには変わりない。


「港から出るのは明日の早朝にしよう。
 僕は馬車の手配をしてくるから、リッカ達は宿屋の確保を頼む。
 その後で、『なごみ亭』という飯屋で合流しよう」

「はーい」


 パームと共に、宿屋が立ち並ぶ海沿いを歩く。


「私、良い宿屋知ってますよ!」

「へぇ、じゃあちょっと案内してもらおうかしら。
 言っとくけど、お金の面を考えて厳しく選定するわよ」

「任せてくださいって」


 私が目指したのは、グレンと共に一度泊まった宿屋だ。
 大陸会の攻撃によって大きく破損したが、私が『想像』で建て直した。
 つまり、私好みの宿屋になっている。


「そろそろ見えてきますよ。
 確かあれですあれ……あれ?」


 私が『想像』した宿屋は、外見は元と同じレンガ造りの宿屋のはずだったが……。
 そこにあったのはところどころに美しい彫刻がある大理石の建物だった。


「こんな宿屋あったかしら」

「あれ? 間違っちゃったかな」


 宿屋の前に立ち、窓から見た景色を思い出してみる。
 確かにこの建物で良いはずなのだが、外観がまるっきり変わっている。

 建て替えたのだろうか、二週間足らずで。
 優れた建築技術をお持ちのようだ。


「リッカ、この宿屋に泊まることは無理よ。
 金貨1枚は確実に必要だわ。
 お金に余裕はあるけど、贅沢しても良いってわけじゃないから」

「やー、私はもうちょっと普通の宿屋だったと思ったんですけどねぇ。
 別のところを探しましょう」


 首を傾げながら別の宿屋を探そう歩きはじめると、宿屋の中から私を呼ぶ声が聞こえた。
 振り返ってみると、宿屋の中からおじさんが飛び出してくる。


「間違ってなかった!
 『偉大な魔法使い』のリッカ様!」

「わー宿屋のおじさんだ!」


 おじさんの顔をよく見ると、私が『想像』した宿屋の店主だった。
 額の汗をぬぐいながら、嬉しそうに私の顔を見る。


「この節は本当にありがとうございました!
 まさかあのようなサプライズがあるだなんて、感謝極まりないです」

「さぷらいず……? ま、まぁ喜んでくれたのならよかったです!」


 何か建て直した以外にしたっけ……?
 内装がよく分からなかったので、適当に創った覚えがある。
 トイレは創ったっけ?


「えー! リッカさん凄いですね!
 今度はどんな偉業を成し遂げたんですか!」


 パームが急に声を変えて話しかけてきた。
 突然の変わりように困惑する。


「リッカ様のお連れの方。
 リッカ様はなんと、壊れた宿屋を一瞬で建て直した上に、三日後に外壁がグレードアップするという素晴らしい魔法を見せてくれたんですよ!」


 外壁がグレードアップ?
 レンガ造りから大理石に変化したというのだろうか。


「流石リッカさんですね!
 でも店主さん、リッカさんが引っ張り蛸になっちゃうので、あまり広めないでくださいね」

「これは失礼しました!」


 パームが私を見るが、目が笑ってない。
 たぶん、『想像』で目立っていることを怒っているんだろう。


「ところでリッカ様、もしよろしければ今夜はこちらに泊まっていきませんか?
 もちろんお代は結構です!」

「ど、どうしますかパームちゃん」

「せっかくなのでお世話になりましょう!」


 私の『想像』とは違う変化を遂げた建物が今夜の宿になった。

 パームちゃん腕を抓らないでー!

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