異世界転生を司る女神の退屈な日常

禿胡瓜

第128話 「私じゃない」

「パームちゃん、起きて起きて」


 操縦席の硬い椅子で眠るパームを揺する。


「起きてる、起きてるわ。
 こんなところで寝れるはずないでしょ」

 昨晩のドッキリは大成功だった。
 私が魔法で小さくなり、グレンの部屋に侵入する。
 その後、魔法の効果が切れることによって元の大きさに戻るが、『集中されなくなる魔法』によりグレンに見つかることはない。
 パームには魔道具で部屋の扉を固定してもらい、私は壁を引っ掻いてグレンを驚かした。

 顔面蒼白のグレンを見るのはとても面白かったし、鬱憤も晴らすことが出来た。
 だがネタ晴らしが一歩遅かった。

 グレンは自身のユニークスキルを発動させ、魔道具で固定された扉を破壊し、廊下の壁までも壊してしまった。
 こっぴどく叱られた私たちは、部屋の使用を禁止され、こうして操縦室の硬い椅子で一夜を過ごすことになった。


「もーお腹ペコペコだわ。朝ごはん食べましょう」

「はーい。グレンさんまだ怒ってるかなー?」


 固まった背中を伸ばしながら食堂にたどり着くが、グレンの姿はなかった。


「居ないですねグレンさん」

「まだ寝てるんじゃないかしら、昨日は変な時間に起こしちゃったし」


 廊下を進み、へし曲がった鉄の扉をまたいで部屋を覗いてみると、椅子に座ったグレンの姿があった。


「おはようございますグレンさん。
 朝ごはんにしましょうよ」

「ないよ」


 グレンが小窓から外を眺めたまま呟く。


「……まだ怒っているんですか?」

「そういうわけじゃなくて、元から一日分の食料しか積んでないんだ。
 本来なら昨日の夜に到着しているはずだったからね。
 昼過ぎには到着するはずだから、それまで我慢さ」

「厳しい!」


 グレンが背伸びしながら椅子から立ち上がる。


「そろそろ船を動かすよ。
 あえて言っておくけど、くれぐれも船外にでないように」

「はーい」

「パームもリッカに感化されないように。
 いたずらっ子はリッカ一人で十分だ」

「あたりまえじゃない」


 パームが腕組んで当たり前だといわんばかりに答える。
 グレンは昨晩の出来事をパーム考案だと知らない。


 暫くすると、船が振動し始め動き出す。
 小窓から外を覗くと、相変わらずすさまじいスピードだということが分かる。


「それにしてもリッカ、部屋を水浸しにするのはやり過ぎよ」


 パームがまだ湿っている床を足でこすりながらつぶやいた。


「え? パームちゃんじゃないんですか?
 さすが良い演出するなーって思ったんですけど……?」

「私はアナタほど『想像』できるわけじゃないし、水を出す手段がないわ」


 二人で首を傾げながら見つめ合った。


「……おもらし?」

「そんなわけないでしょ。
 なんだか気味が悪いわ、別の部屋に行きましょ」


 部屋を出て廊下に倒れる扉をみると、大量の引っ搔き傷があることを見つけた。


「えへっへ、見てくださいよこの引っ搔き傷。
 グレンさんよっぽど怖かったんですね!」

「今度はほどほどに怖がらせてあげましょうね」


 ナイーラ港に着くまでの暇つぶしを探しにグレンの部屋を後にした。




 カリッ……カリッ……


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