異世界転生を司る女神の退屈な日常

禿胡瓜

★第125話 「今しかできないこと」

 <a href="//23725.mitemin.net/i282597/" target="_blank"><img src="//23725.mitemin.net/userpageimage/viewimagebig/icode/i282597/" alt="挿絵(By みてみん)" border="0"></a>
 重いハッチを押し開けて甲板に顔を出すと、途端に凄まじい風が覆う。
 想像以上に風が強い、目をうまく開けられない。
 踏ん張りながらゆっくりと甲板に立ち、梯子を上っているパームに手を伸ばす。

 パームが何か喋っているが、風の音で全然聞こえない。
 手を掴んで甲板に引き上げる。


「ちょっと! これは本当に危ない……わ!」

「なに言ってるんですか! まだまだこれからですよ!」


 お互いに大声で叫びながら会話する。
 近くにあった手すりにつかまり、私は甲板の一番奥を指さした。
 目指す先は船の先端だ。

 手すりを頼りにゆっくりと歩みを進める。
 風の強さは慣れてきたが、船の揺れが厄介だ。
 あんまり手すりに身体を預けすぎると、上下の揺れで顎を打つ。

 ひと際大きな揺れに耐えて更に進んでいこうとしたとき、ポニーテールをくいっと引っ張られた。


「アナタの髪がさっきから私の顔を叩くのよ!
 場所、変わって!」


 パームが私の身体にしがみつきながら前に出る。
 桃色の髪が鼻をくすぐり、くしゃみが出た。

 パームのペースに合わせてゆっくりと先頭を目指す。
 あと20歩か30歩か、確実に近づいてきている。
 正直、とても『空を飛んでいる』とは言い難い。
 でもここまで来たらもう引き返すことはできない。

 前を歩くパームが急に足を滑らせた。
 慌てて手を伸ばして身体を支える。


「あ、ありがとう。
 ここ滑るわ。気を付け……て……」


 後ろを振り返って注意を促したパームの顔が急に固まった。
 視線は私よりも横を見ている。
 何事かと思い、後ろを振り返ってみると……。


 窓に引きつった顔を張り付けたグレンの姿があった。
 操縦室から甲板が丸見えだということをすっかり忘れていた。
 グレンが慌てた様子で操縦する様子が見える。

 船は次第にスピードを落とし、やがて止まってしまった。


「あちゃー、先頭までたどり着けなかったねぇ」

「少し残念だわ」


 パームが寂しそうに先頭を見た。


「最初は怖かったけど、最後らへんは楽しかったわ。
 空を飛ぶってこんな気持ちなのかしら」


 甲板の扉が開き、グレンが走ってくるのが見えた。


「パームちゃん、これからどうする!」

「どうするって……?」


 走ってくるグレンに指で示す。


「黙って怒られるか、逃げるか!
 たぶん逃げたら昼食は抜きだよ!」

「へぇ……」

「逃げるなら急いで!」


 パームが私とグレンを交互に見比べた。


「せっかくだし、逃げてみるわ。
 『尾を踏まば頭まで』って言うから!」

「よしきた!」


 パームの身体にポンッと触れ、『集中されなくなる魔法』を唱える。


「後で私の部屋に合流ね!」


 そういって甲板を駆けだした。


「えぇ! 逃げるの!?」


 グレンの悲痛な叫びが海に木霊した。

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