異世界転生を司る女神の退屈な日常

禿胡瓜

★第120話 「限界突破」

 
 遂に明日出発の日だ。
 何かをする必要はないのだが、何かしないといけない気がする。
 屋敷に居てもソワソワするだけなので、パームの準備を見に行くことにした。

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『春まで休業します』という立て札が入口にかけられていた。
 里への入り方を秘密にしなければ別に休業する必要はないのに、わざわざついてきてくれるなんて大変そうだ。
 でも、やっぱりついてきてくれるのは嬉しい。
 異世界にやって来てからマトモに女の子と行動を共にしていなかったからだ。

 入口は鍵が掛かっていたので、鍵穴を魔法庫に入れて勝手にお店に入った。
 鍵穴を元に戻しながら扉を閉める。完璧に自然だ。

 一階にパームの姿は無い。
 心なしか、置いてある商品少なくなっている気がした。
 足音を立てないように階段を上がり三階に顔を出すと、パームの背中が見えた。
 リュックに荷物を一生懸命詰め込んでいるようだ。


「あーもー! 入んないじゃない!」


 苛立ちの混じった声が聞こえ、リュックを逆さまにすると様々な魔道具が床にぶちまけられた。
 魔道具の一つが床に落ちた衝撃によって反応してしまったのだろうか。
 小さな四角形の箱がパチパチと燃え始めた。


「やばい! あちっち!」


 パームが慌てて消火を始める。
 そこらへんにあった布をバタバタと叩きつけた。


「……ふふっ」


 思わず笑ってしまった。
 パームの顔が凄い勢いでこちらを向く。
 慌てて物陰に身を潜めた。


「……誰?」


 パームが少しずつ近づいてくる。
 十分に引き付けてから……。


「わ!」

「ひゃぁっ!」


 兎のように飛び跳ねてからドシンと尻餅をついた。
 大成功だ。


「ふっふー。私の勝ちですね」

「リッカぁ!? なんで中に居るの!?」

「鍵なんて私の障害にならないんですよ!」

「そういうことじゃなくて……」


 パームとわちゃわちゃしていると、やけに部屋が煙っぽくなっていることに気が付く。
 後ろに目をやると、四角い箱がいよいよ火柱を上げていた。


「忘れてたわ……。
 旅の前日に店が全焼だなんて、ただの夜逃げになっちゃうじゃない」

「何言ってるんですかパームちゃん」


 右手で水を『想像』し、四角い箱に浴びせ続ける。
 しかし、白い煙が上がるだけで一向に火が消える気配はない。


「ここまで火が上がったらもう無理よ。
 本体が朽ちるまで水の中でも燃え続けるわ」

「なんですかその欠陥商品!」

「それが『売り』なの」


 水をかけても消えないのなら奥の手だ。
 右腕に『想像』した水を纏い、火の中に手を突っ込んだ。


「えーいままよままよ!」


 四角い箱を引っ掴み、魔法庫に入れる。
 一瞬だけ熱風に顔を覆われるが、もう安心だ。
 後には黒く焼け焦げた床だけが残った。


「……また、助けてしまいましたね」

「なんかムカつくわねその言い方。
 ていうか、アナタが来ていなかったら初期段階で鎮火できていたわ」


 少しだけ燃えているパームの怒りを鎮火させる方が大変だった。

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