異世界転生を司る女神の退屈な日常
第115話 「チートスキルは欲しいですか?」
ボクの当面の目標は、表彰されることだ。
表彰される理由は課によって異なる。
転生課であれば、異世界のバランスを保った者に贈られる。
代表的な例が、転生者による魔王の討伐。
奇跡課であれば、世界を安定させた者に贈られる。
『安定』とは多くの意味を持つが、代表的な例がその世界の主軸となる宗教を確立させることだ。
いち早く表彰される為に、一つの悩みが生まれた。
転生課と奇跡課、どちらのほうが簡単に表彰されるか。
転生課であれば、500ポイント持ち——つまりユニークスキルを与えることが出来る生物じゃないと魔王を倒すことは難しいだろう。
そして、500ポイント持ちがボクの所に来る確率はかなり低い。
100人に1人いれば良い方だ。
それに加えて、送り出した転生者が魔王を討伐するかどうかという問題もある。
奇跡課であれば、確実に表彰される方法は宗教を確立させること。
宗教というものは、その種族の発展に欠かせない。
生きる意味を、死ぬ意味を与えるからだ。
宗教のおかげで善良な生物が生まれるともいえる。
だが、新しく宗教を作ることは難しい。
宗教が無い知的種族が居る異世界を担当することがまず少ないし、奇跡の関与によって宗教が必ず生まれるともいえない。
要するに、どちらの課も『運』が必要なのだ。
可能性から考えると、『数を撃ちやすい』転生課のほうが簡単かもしれない。
「あばばばぁ!」
結局、転生課の割合を今までより増やすことにした。
奇跡課での業務は、様々な世界の魔王を観察し、ユニークスキルの生成に役立てたいと思う。
『勇者』や『大賢者』というスキルよりも、リッカのように『奇抜』なスキルを与えた方が良いと思ったからだ。
「ベラベラベラァ!」
「……さっきから喧しいのです。
なんでカナエだけを部屋に入れたはずなのに、お父さんまで居るのですか」
「良いじゃないか!
最近、愛おしい娘が仕事に明け暮れてばかりで寂しいんだから!」
「そうだゾー!
良いダロ良いダロ!」
「うーうるさいうるさい。
大事な事を考えてるから静かにしてほしいのです」
「その為にカナエちゃんのことを呼んだんだろ?
ほら、お父さんにも相談してみなさい」
変な所で父親ぶってほしくない。
でもよくよく考えれば、父は研究課勤めだ。
異世界についてボクよりも知っているだろうから、良いアイデアがあるかもしれない。
「……どんなユニークスキルを与えるか迷ってるのです」
「そんなことで悩んでたのか。
ちょろいよなーカナエちゃん?」
「チョロイチョロイ!」
「要するに魔王を殺せれば良いんだろ?」
「……そうですが、『勇者』とか単純なのじゃダメなのです」
父はそんなこと分かっているという顔で、ボクに人差し指を突き付けた。
「『指をさした生物が死ぬ能力』」
「……は?」
「『指をさした生物が死ぬ能力』!」
「かっこイイネ!
魔王もイチコロ!」
父とカナエのゲラゲラという笑い声が部屋に木霊す。
真面目なのかふざけてるのか分からないが、このユニークスキルを与えることが出来れば魔王の討伐は容易いだろう。
ただ、本当に『指をさした生物が死ぬ能力』なんて与えて良いのだろうか?
その力を正しく使うことは出来るのか?
そもそも与えられるのだろうか。
結局、悩みが深まっただけだった。
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