異世界転生を司る女神の退屈な日常

禿胡瓜

第114話 「旅行は計画的に」

 
 場所は変わって客間の一室。
 革のソファーに向き合って座る。
 用意された紅茶を啜ってから最初に口を開いたのはパームだ。


「それで? 現状は何が分かってるの?」

「里の場所と行き方の予想を立てたぐらいです。
 パームさんにはこれらの予想が正しいか教えてほしい」


 カイルが机の上で本を開く。
土竜モグラの巣』の地図だ。


「里の場所は『土竜の巣』のどこか。
 辿り着く方法は、天空人の持つ『感覚』。どうですか?」

「まぁ当たってるわ。
 でも、これだけじゃ辿り着けないわね」

「なぜでしょうか?」

「例えば、『感覚』が里への道しるべだと人間が気づいた時。
 天空人のことを脅して里に案内させる可能性があるわ。
 そんなことがあっても、『土竜の巣』には天空人しか里に入れない魔法がかけられてるのよ」

「天空人以外が里に入る方法は?」


 パームはすぐには返答せず、一度紅茶に口を付けた。


「まだ教えないわ。
 アナタたちを信頼しているワケじゃないもの。
 あ、リッカは別よ」


 パームが私を見てほほ笑む。
 彼女にとっては、私が里に行けば満足なのだろう。
 グレンたちは二の次だ。


「パームちゃん、それじゃ協力の意味がないんじゃないですか?」

「どうかしらね」


 グレンとカイルが難しそうな顔をしている。
 先に口を開いたのはグレンだ。


「最悪、僕たちは里に入れなくて構わない。
 その場合は、リッカに伝言か何か頼んで別の方法でアプローチを取ろうと思う」

「正直、あやふやな里の存在を明確に出来ただけでも幸運です」


 これ以上望むことは無いという感じだ。
 確かに、パームの協力は予想外の出来事だった。
 彼女が居なければ里にすらたどり着けなかっただろう。


「パームさんはいつもどうやって里に行かれるのですか?
 あの辺りは人を襲う魔物が居る。天空人も例外なく襲われるだろう。
 殺傷を好まないあなた達は、どうやって魔物との戦闘を回避している?」

「職業柄、私はキャラバンと共に向かうわ。
 『土竜モグラの巣』の手前でキャラバンから別れて、そこから里入りするって感じね」


 キャラバンといえば、ベンガルが護衛していた商人の集団だ。
 確かに、店主であるパームがキャラバンに紛れ込めば、何も怪しまれることはない。


「じゃあ、私たちもキャラバンと一緒に行けばいいですね」

「却下ね。
 最近キャラバンが北から帰って来たばかりだもの。
 一年は待つ必要があるわ」

「一年は長いですねぇ」


 キャラバンという安全な移動手段が使えない以上、残る手は……。


「僕が二人を護衛して連れていく、か……」

「正直心細いわね。
 誰かほかに協力してくれる人は居ないの?」


 グレンが顎に手を当てながら考える。


「こちらの事情を理解してくれて、協力してくれそうな人物は……居ないな」

「居ませんね」


 グレンとカイルが口をそろえて答えた。


「ベンガルさんはダメなんですか?
 今、ライン街に居るはずですよ」

「ベンガルはA級冒険者だからね。
 ひっきりなしに仕事を請け負ってると思う。
 仮に仕事が無くても、少ない休暇を邪魔は出来ないな」


 確かにベンガルは暇が似合わなそうな人間だった。
 鎧を脱いだ姿が想像できない。


「僕たちだけで行くしかないね。
 一応『神から与え神から与えられし力ユニークスキルられし力』があるんだ。
 なんとかできると思うよ」

「ふうん、神様から愛されてるのね。
 でも雪が降る前に行った方が良いわね。
 少人数での旅は雪狼スノーウルフの良い餌食よ」


 狼の集団に囲まれる場面を想像して身震いする。
 テレパシーが通じても意思疎通できない相手が居る恐ろしさを知ってしまった。


「そういえば、グレンの『神から与えられし力』は何なの?」

「はいはーい!
 グレンさんは高速で『ハイハイ』することができます!」

「ちょっと待ってくれ。アイン!」


 自身のユニークスキルを弁解する前に、アインを探しに部屋を飛び出してしまった。
 少ししてから、グレンが高速で『ハイハイ』する姿を想像したのか、パームの笑い声が屋敷に響いた。

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