異世界転生を司る女神の退屈な日常

禿胡瓜

第111話 「はじめての」

 
 作り上げたシチューの中には不格好に切り分けられた野菜がゴロゴロと入っていた。


「ごめんなさい」

「まぁその、『風情』があっていいと思うわ……」


 パームのフォローが胸に刺さる。

 食べることが好きでも、料理が得意だとは限らない。
 幸い、私は野菜を切ることしかしていないので、最悪の事態は免れた。


「パームちゃんは毎日ご飯を作ってるんですか?」

「時々外で食べることもあるけど……、まあ毎日作ってるわね」


 じゃあベテランさんだってことだ。
 コリコリと芯の残る野菜を食べながらため息を吐く。


「アナタは今どういう生活をしているの?
 一緒に冒険してる人が居るって言ってたけど」

「今はその人のお家でお世話になってます。
 メイドさんがご飯を作ってくれるんですよー!」

「メイドが居るってことは貴族通りの人じゃない?
 どうしてそんな人と冒険を……」


 3杯目のシチューを平らげて、お鍋の中身を空っぽにする。
 大きすぎる野菜に目を瞑れば、百点満点のシチューなのだ。

 お鍋とお皿を洗って片付け、空いた机に買ってきたお菓子を広げる。


「ゲッ。こんなに食べたら太るじゃない」

「太るんですか?」

「もうブクブクよ」


 そう言いつつも、パームはお饅頭に手を伸ばした。


「アナタに聞きたいことがいっぱいあるのよ!
 まずはさっきからやってる物を消したり出したりするのは何なのか教えてほしいわ」

「え? これですか?」

 掌の上に硬貨を出したり、コップを出したりしてみせる。


「そう、それよ」

「魔法庫に出し入れしてるんですよ。
 出来ないんですかー?」

「出来ないから聞いてるの!」


 パームが魔法庫から出し入れしている様子をジッと見つめる。


「魔法……じゃないみたいなのよね。どうやってるの?」

「さぁ。気づいたら出来るようになってました」

「なんとまあ、おめでたいわね」


 私の手首を触ったり、裏返したりしながら首をひねっている。


「そういえば、人のことも魔法庫に入れたことがあるんですよ。
 入ってみますか?」

「えぇー……。
 それは人道的にどうなのかしら。遠慮しておくわ」


 魔法庫に関しては謎が多い。
 そもそも今まで知ろうとしなかったからだ。
 最近になって分かったことは、魔法庫の中に入った物は時間が経過していないように思える。
 食物はいつまでたっても腐らないし、ケガをしたおじいちゃんは入った時と同じ状態で出てきた。
 この上なく役に立つ。
 ユニークスキル『女神』の力の一つなのだろう。


「アナタの翼も魔法庫から出し入れしてるってことかしら?」

「や、違いますよ。
 あれは創ってるって感じかなぁ……」

「つくるって、創るってこと?」

「そうです!
 あれ? もしかしてパームちゃん……」

「創れるわよ!」


 パームがしかめっ面をしながら机の上で両手をこねこねし始めた。
 手の間に小さなマグカップが少しずつ造形されていく。
 私がお饅頭を3つ食べ終わるころにマグカップは完成した。


「ほら! 創れるわ!」

「可愛いマグカップですね」


 押し殺した叫び声を上げながら、パームがお菓子を頬張る。
 私も負けじと口に詰め込んだ。

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