異世界転生を司る女神の退屈な日常

禿胡瓜

第110話 「パブロフの犬」

 
 しっかりと歯を磨き、鏡の前で身なりを確かめる。

 よし、完璧だ。

 昨日約束した通り、今日はパームの家でお泊りするつもりだ。
 グレンに許可を貰うのを忘れていたが、まあ大丈夫だろう。
 それにいつも忙しそうに本を読んでいるから、声を掛けて邪魔をしたくない。

 厨房に出向くと、予想通りアインが居た。


「アインちゃんー!
 今日は友達のお家でお泊りしてくるから、グレンさんたちによろしく!」

「かしこまりました。
 明日はいつ頃お戻りになりますか?」

「んー。お昼くらいには戻ってきます!」

「それでは昼食を準備しておきますね。
 是非、お友達も連れてきてください」

「はーい」


 ひらひらと手を振り、厨房から出る。

 外に出て、屋敷を振り返る。
 窓からは相変わらず本を読み耽ているグレンの姿が見えた。


 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


『お泊り』といえば、エリカの家での出来事を思い出す。
 食べることが好きだった私たちは、決まって甘い物を寄せ集めて夜通し食べたものだ。
 エリカには喧しい弟が二人居て、時々つまみ食いされることもあったっけ……。
 元気にしてるかなぁ。

 と、いうわけでパームの家に行く前にお菓子を買おうと思い、一週目通りに来た。
 一目でお菓子屋さんだとわかるお店を見つけ、中に入った。

 奇抜なデザインの外壁とは裏腹に、中で売っている物は素朴なものが多かった。
 一口サイズのお饅頭や、チョコなどを抱える。
 パームが甘い物が苦手かもしれないので、しょっぱそうなお菓子も買っておいた。
 完璧だ。

 会計を済ませて店の外に出ると、空がオレンジ色になっていた。


 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「お邪魔しまーす」

「あ、ちょっと待ってね」


 パームのお店『トーテム』に入ると、ちょうどお客さんの相手をしている所だった。
 お金を受け取り、商品を手慣れた様子で包み込んでお客さんに渡す。


「ありがとうございましたー!」


 最後は入口を開けてお客さんを見送ると、扉の立て札を裏返して『営業中』から『また明日!』に変えた。


「ふぅ、待たせたわね」

「凄いねパームちゃん。
 ベテランさんみたい!」

「ふふん、そりゃこの商売で食ってますから!」

「流石!
 お店見ていっても良いですか?」

「もちろんいいわよ」


『魔道具屋』ということもあって、一見では使い方の分からない商品がたくさん並んでいる。
 その内の一つ、銀の小さな球体に目を付けた。


「これはどうやって使うんですか?」

「えーっと、これは『雷弾らいだん』って言って、電気をため込むことのできる物なの。
 帯電すると宙に浮いて、触れた人がビリビリするわ。
 主にけん制で使うのが目的ね」

「はえー」

「そうだわ。
 何か気に入ったものがあったら一つだけならあげるわ」

「え! いいんですか!」

「えぇ。 アナタには助けてもらった恩もあるからね」


 どれを貰おうか店を物色するが、やっぱり使い方の分からないものばかり。
 そんな中で、一つだけ見覚えのあるものを見つけた。
 薄茶色の紙に魔法陣が掛かれている。


「これって確か、『陣紙じんし』ってやつですよね?」


 グレンがナイーラ港で使っていた物だ。


「う、そんな高い物をよく知ってるわね。
 それは『消音』の陣紙よ。
 陣紙を張り付けた物や人が発する音が聞こえなくなるの」


 魔法の効果はともかく、グレンは陣紙を活用するようだった。
 プレゼントしたら喜ぶかな。


「じゃあ、これください」

「うぅ、わかったわ。
 使い方は分かるかしら?」

「だいじょーぶです」


 パームから陣紙を受け取り、魔法庫にしまう。


「え! なに今の!」

「え! 何がですか!」

「……ま、まあいいわ。あとで聞くから。
 上に行きましょう。夕飯作るの手伝ってほしいの」

「任せてください!」


 そういえばマトモに料理をしたことが無い。
 まぁ腐っても元女神だし、何とかなるだろう!

 根拠のない自信は、残念な方向に猛威を揮った。

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