異世界転生を司る女神の退屈な日常

禿胡瓜

第104話 「口溢れ談義」

 
「そういえば、やっぱり私は強くて利口でカッコイイらしいですよ!」

「……なんだって?」


 ちびちびと『ニーカ』を飲んでいたグレンが疑問の声を上げる。


「『天空人』はお互いの存在を『感覚』で察知することは知ってますよね?
 私は他の天空人と『感覚』が違うらしいですよ。
 魔力の質が違うらしいです!」

「ふーん。でもそれって別に利口ってわけじゃないよね」


 グレンはまだ納得いかない顔をしている。
 なんじゃこいつ。


「でもグレンさんだって寝相悪いじゃないですか!」

「い、いや、別に今それは関係ないじゃないか……」

「鎧も臭い!」

「えぇ……」


 グレンが小さくなっていく。
 まだまだ言えることがあるぞ!

 次の悪口を言おうと口を開きかけた時、カイルが音を発ててグラスを置いた。
 すっかりグレンの親の前だということを忘れていた。
 怒られるのかもしれない!


「リッカさん、それって他の『天空人』に会ったってことですよね?」

「は、はい。そうですけど……?」


 やっとそのことに気付いたのか、グレンが驚いた顔をしている。


「居たんだ、この街に」

「驚いたな……」


 あ、言っちゃまずかったかな。


「リッカ、どこの誰か教えてくれないか?」

「え、嫌ですよ。
 パームちゃん人間のこと信頼してなさそうですし」

「パームって人らしいよ父上」

「あぁ、魔道具屋の店主だ。
 よく税金をちょろまかそうとしている」


 やっちまった。
 ごめんパームちゃん。


「リッカ、僕は一日中『感覚』のことについて調べてみたが、何一つ分からなかった。
 『天空人』にしか分からないことだから当たり前だ。
 『天空人』しか知りえないようなことをパームから聞き出してくれないか?」

「えぇ……。
 それってあまり良くないようなことをしてると思うんですけど」

「ダメかな」

「ダメですね、地獄行きですよ」


 蜂蜜入りの『ニーカ』を一口飲む。
 そもそもパームを巻き込む理由がない。
 私が居て、天空人の里に辿り着ければ十分じゃないか。


「グレン、現状パームさんの手を借りる必要はないさ。
 リッカさんの言う通り、私は胸を張れる方法で里に辿り着きたい」

「わかったよ……」


 グレンがグラスの中身を一気に呷った。


「先に失礼するよ。
 風呂にでも入って寝る」

「お風呂!  あるんですかお風呂!」

「ああ、あるさお風呂。入るかい?」


 風呂という存在は知っていたが、入ったことがない。
 如何せん準備がめんどくさいし、そもそも汚れることが無いから入る意味が無かった。
『いつか入ろう』と思い数十年、遂に入ることは叶わずこの世界に来てしまった。

 是非ともこの機会に!


「グレンさんの入った後のお湯に浸かりたくないです!」

「君はいつから僕をそんなぞんざいに扱うようになったんだい?」

「グレン、正直に言ってくれるだけいいじゃないか。
 おーいアインちゃん。リッカさんを浴場に案内してあげて」

「やった!」


 残ったグラスの中身を飲み干し、頭を抱えるグレンを尻目に浴場へ向かった。

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