異世界転生を司る女神の退屈な日常

禿胡瓜

第102話 「三人家族」

 
 無人の庭を通り抜け、大きな扉を開ける。


「ただいま~」

「お帰りなさいませ、リッカ様」


 入ってすぐにアインが迎えてくれた。
 誰かが出迎えてくれるって凄い良い!


「グレンさん達は?」

「相変わらず、資料探しに没頭しています」


 じゃあ様子を見に行くか……。

 最初に通された部屋を目指して歩く。
 アインも後ろからついてきた。
 二階に上がって、右側の通路の2つ目の角を曲がってから4つ目の扉だ。


「……案内の必要はなさそうですね」

「あ、記憶力だけはちょっと良いんです。
 パニックになってたりしたら忘れちゃうけど、日常のことはだいたい覚えてますよ!」

「それは素晴らしいですね」


 アインは最後に仕事をこなすべく、扉を開けてくれた。

 部屋の様子を窺うと、出た時と同じようにグレンとカイルが黙々と本を積み重ねていた。
 私が部屋に入ってきたことに気が付いていない。

 こっそりと近づいて、グレンの後ろから本をのぞき込んでみる。

 ……ふーん、よくわかんないや。
 アインが見ていたので、適当に魔法陣を描くフリをして氷の粒を『想像』する。
 出来上がった小さな氷を、無防備なグレンの背中に押し入れた。。


「熱ッ!? じゃない冷たい!なんだなんだ!」


 慌てて背中の氷を取ろうとするグレン。
 そうはさせない。背中の膨らんでいるところをギュッと抑えた。


「ひうっ!」


 ガタガタと机を揺らしたせいで、積み重なった本が崩れる。
 何とか立ち上がったグレンがやっと私に気づいた。


「リッカ!リッカか!
 何をしたんだおかえり!」

「えへええへ、氷を背中に入れたんですよ」

「氷! うぅ……もう溶けてしまったようだ」


 グレンの服に染みが出来上がっている。冷たそう!


「カイル様、グレン様、食事の準備が整いましたがどうされますか?」

「あぁ、食べるよ。
 父上も食べますよね?」

「あぁ。もうそんな時間か」


 カイルが外の様子を見てそう呟く。


「リッカさんも一緒に食べますよね?
 アインちゃんの作るご飯は美味しいぞ~!」

「え!アインちゃんが作ってるんですか!
 食べます食べます!」

「では、こちらへどうぞ」


 アインに誘導され、食堂に辿り着く。
 長く、白いテーブルクロスの上にはフォークとナイフが置かれた席が3つあった。
 その内の一つをアインが座りやすいように動かしてくれる。

 グレンとカイルはまだ来ていない。
 本の片づけに追われているようだ。


「そういえば、グレンさんのお母さんは居ないんですか?」

「グレン様からお聞きになっていませんか?
 ローラ様はグレン様が幼い頃に亡くなっています」


 あや、それは聞いていない。
 危うくグレンに聞いて気まずくなってしまうところだった。


「『どうして』って聞くのは野暮ですかね……?」

「それはグレン様の口から聞いた方がよいでしょう」


 グレンたちが食堂に入ってくる。
 残り二つの席に、グレンとカイルは迷わず座った。


「それでは料理をお持ちしますので、少々お待ちください」


 アインが頭を下げて裏に行く。

 大きな長いテーブル。
 お母さんはどこに座っていたのだろうか。

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