異世界転生を司る女神の退屈な日常

禿胡瓜

第99話 「探し探し」

 
 一人でやって来たのは5週目通り。
 パームのお店に顔を出す為だ。
 この通りは、すべての建物が商店なのだが……。


「お店の特徴が少しも分からない」


 出店で買った棒状の揚げ物を食べながら立ち尽くす。
 既に、いくつかの店を覗いてみたがどれも違った。
 一つ一つ店を確認していると、一体何日かかるか分からない、
 はてさて、一体どうしたものか……。


「どうしましょうか、アインちゃん」

「情報を頂ければ特定できますが……」


 グレンの屋敷に勤めているメイドのアインが、なぜか私についてきた。
 少しだけ不安だったから、とても嬉しい存在だ。


「えーと、店主の名前はパーム。
 桃色の長髪で、気の強そうなお姉さんって感じ!」

「パーム、魔道具屋『トーテム』を経営している女経営者ですね。
 店を構えているところは東側なので、ちょうど反対に在ります」

「さっすがアインちゃん! 完璧ですね!」

「産まれも育ちもライン街ですから」


 アインがグレーの髪を耳にかけながら答えた。

 教えられた通り、反対側を目指しながらアインに話しかける。


「アインちゃんはいつからあのお屋敷で働いてるんですか?」

「しっかり働き始めたのは5年ほど前からです。
 あの屋敷には12年前から出入りしていました」

「へぇー、じゃあグレンさんとも長い付き合いなんですね」

「はい、まだグレン様が青臭い頃からの付き合いです」

「青臭い頃!
 グレンさんはどう青臭かったですか?」


 今は優しい青年に加えて、剣の扱いも達者だ。
 見るからに完璧なグレンが、どんな子供だったか気になる。


「グレン様は少し『特別な』お力を持っています。
 そのせいで幼少期から人付き合いが乏しく、内気な方でした」

「特別な力って確か……」

「ご存知でしたか? グレン様は超高速で『ハイハイ』することが出来ます。
 それはもう光の如く、何もかも突き抜けていきます」

「えぇ……」


 初めて会った時にも見たあれは『ハイハイ』だったのか。
 つまり転生課の女神に『高速でハイハイする能力』を与えた変態が居たということだ。
 私も勘違いして『ユニーク(変な)』スキルを与えていたが、同じような女神が居たとは……。


「内気なグレン様がこれからの将来どうなってしまうのか不安になった時に現れたのが、毛むくじゃらの大男でした」


 あぁ、それってもしかして……。


「カイル様の友人である、ベンガル様という方がグレン様の暴走する『ハイハイ』も、内気な性格もすべて受け止めたのです。
 こうして頼りになる受け皿を手に入れたグレン様は、自分に自信を持ち、今の好青年へと成長したのでした。めでたしめでたし」


 締めくくったアインにパチパチと拍手を送る。
 グレンにとって、ベンガルの存在はとても大きいはずだ。
 もし、彼が居なかったら今のグレンは存在しないだろう。


「着きましたよ、リッカさん。
 パームが経営する魔道具屋『トーテム』です」


 他の店に比べれば控えめな方だが、やはり少し変わったお店だった。
 三階建の十字架型の建物だ。一番上の階層には可愛らしい顔が描かれている。


「お屋敷への帰り道は大丈夫ですよね。
 では、私はこれで……」

「一緒に来てくれないんですか!?」

「私も用事があって来ましたから」


 アインが一礼をした後に、街の中に消えていく。
 少し心細いが、こっちのほうが都合よいかもしれない。
 人間が居れば話せないこともあるだろう。

 ネコの形のドアノブに手をかけ、『トーテム』の扉を開けた。

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