異世界転生を司る女神の退屈な日常

禿胡瓜

第98話 「足りないけど足りた」

 
『天空人の里』の場所なんて私が知るわけがない。
 そもそも初めて聞く単語だ。


「まぁ、分からなくても無理はないリッカさん」

「……強くて利口でカッコよくても、『天空人』じゃないからね」

「うがー」


 いきなり八方ふさがりだ。
 旅の道中にでも精いっぱい役に立とうと思ったが、そもそも目指す場所がない。


「里についてどんなことが分かってるんですか?」

「遥か北にあるってことぐらいだ。
 問題は、我々人間でも辿り着ける場所にあるかどうかってことだ。
 空を飛べないと行けないところだったら、里に行くのは難しくなる」

「それは無いと思いますよ。
 『天空人』は空を飛べないと思います。
 翼が小っちゃ過ぎます!」

「……でも、里に関する文献が少なすぎる。
 僕たちが目指して辿り着ける場所ではないんじゃないかな」


 カイルやグレンと議論を交わすがどう頑張っても平行線だ。
 私が加わったところで、何一つ変わらない。ショック!


「あーあー! そういえば『天空人』にはお互いが『天空人』かどうかわかるって話、知ってますか?」

「初耳ですね」

「えっへん。
 『天空人』はお互いの距離が近くなると、何か不思議な『感覚』がピンってくるんですよ。
 あの人が『天空人』だってことが見なくても分かります」


 カイルが顎に手を当てながら考え込む。


「……でも、里となんの関係が?」

「もー! グレンさんは余計なことを言わないでください!」


 グレンの膝をバチバチと叩く。
 せっかくの情報を無下にしようとするとは、なんて男だ。


「そうだぞグレン、もしかしたらその『感覚』が里への道しるべかもしれない」

「父上、仮に『感覚』が道しるべだとしても、どこから使えるのかが問題です。
 『遥か北』という情報だけでは場所を絞れない」

「……一つ、可能性のある場所を知っている」


 カイルが部屋の片隅にある本棚から一冊の本を取り出し、机の上で開く。


「エルラド山脈の麓に『土竜モグラの巣』という洞窟がある。
 道がいくつも枝分かれしていて、この洞窟の全貌を解き明かした冒険者は居ない。
 通り抜ける為の道が記された専用の地図が無ければ、生きて帰れない洞窟だ」

「確かに『感覚』がこの洞窟で使えれば、『天空人』にしか辿り着けない道があるかもしれないですね」

「よし、そうなれば私は『土竜の巣』について洗いざらい調べてみる」

「僕は『天空人』の『感覚』について調べてみるよ」

「じゃあ、私は……」


 カイルは広げた本を食い入るように読み始めている。
 グレンも本棚から何冊も本を取り出し始めていた。
 ……任せちゃっていいか、邪魔しちゃ悪いし。


「……私は観光でもしてきますね」


 静かに扉を開けて部屋から出ようとすると、グレンと目が合った。


「知らない人についていっちゃダメだからね」

「天使扱いしないでください!」


 バタンと扉を閉め、憤りを表す。
 まったく、グレンは私をなんだと思っているのだろうか。
 ギルドで計測紙を壊して、少しでも敬いを持ってくれるかと思ったが駄目だったらしい。
 ホントあきれちゃうね!

 ……ふぅ、とりあえず街に降りて約束通りパームの店に行ってみよう。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品