異世界転生を司る女神の退屈な日常

禿胡瓜

第94話 「積み重なる現実、押し潰される過去」

 無数に存在する異世界は、それぞれ時間の進む早さが違う。
 天界が大きな歯車だとすると、天界から離れるほど歯車は小さくなっていく。
 そして歯車の回転速度が速いほど時間の進みも早くなる。

 奇跡課の仕事では、一度に10ほどの世界が割り当てられ、同時に監視する。
 その中で時間の進みが早い世界は2つ程だ。
 これくらいの数に抑えないと対処しきれなくなってしまう。

 それなのに、なぜか今日割り当てられた世界は15。
 しかも、時間の進みが早い世界が5つもあった。
 もうあっちに天罰こっちに天罰で天手古舞だ。

 原因はなんとなく察しが付く。
 割り当てられる仕事の数が多いということは、仕事を行う女神の数が少ないということ。
 そして、今日は図書館に新刊が入る日だ。

 十中八九、仕事をサボったのだろう。
 以前あれほど注意をしたのにとても嘆かわしい。
 今日は図書館まで出向いてサボった女神をとっちめてやろう。

 仕事を交代要員の女神に任せ、奇跡課の出口を目指す。
 普段、多くの女神が仕事をしている大ホールを横切ると、やはり空席が目立った。

 見覚えのある顔の女神とすれ違う。
 確か以前、欠勤した者をリストアップさせた女神だ。
 丁度いいからまたリストを作ってもらおう。


「……お疲れ様なのです。お願いがあるのですが」

「欠勤した女神のリストですか……?」

「そうなのです」

「はぁ、やっぱり。今日結構空席が目立ちますよね。
 少し時間がかかりそうなので、出来上がったら声を掛けますね」

「……頼んだのです」


 話が早くて助かる。
 リストが出来上がるまでに一度図書館へ行って、サボった女神を探してみよう。


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 数か月に一度の新刊導入日。
 毎回、この日は多くの神々が図書館に訪れる。

 身長が少々至らないボクにとっては、この人だかりの中を歩くのは多少厄介だ。
 軽く1,2週して、顔見知りのサボり女神が居ないか探してみよう。

 点々とある読書スペースをチェックしながら、本棚の間も探してみるが、見知った奇跡課の女神は見当たらない。
 念のため、空を飛びながら探してみると、歩き回るだけでは見つけ辛い読書スペースを見つけた。

 ここにいるだろうと思い、チラッと覗いてみると……。
 なぜかまだ働いているはずの父がいた。
 熱中して本を読んでいる。
 ……これは後で母に報告だな。

 結局、誰も見つけることが出来ないまま奇跡課に戻ることにした。


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「……お待たせなのです」

「あ、テンシさんおかえりなさい」


 お願いした女神が、入口のところで待ってくれていた。


「……いつも助かるのです。
 欠勤者はどれくらい居たのですか?」

「3人でした」

「……3人?
 それは少なすぎるのです」

「そうですよねぇ」


 現に、入口する近くの大ホールでは3つ以上の空席がある。
 このホールだけ見ても十人は欠勤者がいるはずなのだ。

 念のため、ボクも固定端末を使って欠勤者の数を調べてみるが、やはり3人だけだった。


「……ヘンリエッタ」

「はい?」

「確か、そこの一番端っこの空席に座っていた女神の名前はヘンリエッタだったのです」

「あー、茶髪でボブヘアーの人ですよね!」


 欠勤者の3人の中に、ヘンリエッタの名前はない。
 さっき、図書館に行く前からこの席は空いている。
 休憩中ということはないだろう。

 もしやと思い、奇跡課に勤める全女神データに検索をかける。
 普通ならこれで勤務日数や配属先を確認できるのだが……。

『ヘンリエッタ』という女神のデータは存在しなかった。

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