異世界転生を司る女神の退屈な日常

禿胡瓜

第90話 「わたしのしょうらいのゆめは……」

 
 私はトレント家の養子ということにして冒険者申請用紙を書き始めた。


「トレントってどういう意味ですか?」

「さぁ……どうかしたの?」


 女神たちに『姓』を与えるということは、『姓』にちなんだ新しい能力を与えるということだ。
 ……まぁ、勝手に姓を名乗り、新しい能力が付与されることはないだろう。


「もしかして、『トレント』って苗字嫌い?」

「いえ!そういうわけじゃないですよ!」


 名前の欄に『リッカ=トレント』と記入する。
 年齢は『20歳』にしておいた。


「住所の欄は僕が最後に書いておくよ。
 次は使用武器だね」


『杖』『大剣』『槍』などなど、様々な武器が書かれたところに『〇』を記入するタイプだ。


「『魔法使い』だとか『戦士』だとかじゃないんですか?」

「昔はそうだったんだけどねぇ。
 あくまでもアレは『自称』だったから、人によって見解が違くて混乱することがあったんだ。
 今は誰もが総じて『冒険者』」

「へぇ~親切設計ですね」

「その代わりに新しいシステムが導入されたんだ」


 グレンがそう言って金の小さな紙を取り出した。


「リッカのように魔法をメインに使うなら、この紙を使う。
 これで魔力量、増幅値、加速度を計測して、総合的な魔力を測るんだ」


 目がキラリと輝いた。
 魔力量は誰にも負けたことがない。
 ここで凄まじい魔力を見せてグレンをあっと言わせてやろう。


「わかってると思うけど、あんまり目立つのは好ましくない。
 なるべく手加減して……」

「わかってますよ任せてください!」


 グレンから紙を受け取り、魔力を注ぎ込む。
 もちろん全力だ。

 バチバチと光を放ちながら金の紙が紫色に変色を始める。


「リッカ! ストップストップ!」


 グレンの静止もむなしく、紫に変色した紙がはじけ飛んだ。
 受付のお姉さんや、列に並んでいた冒険者が驚いてこちらを見る。


「たはー! やってしまった!」

「はぁ、まぁいいけどさ……」


 グレンがはじけ飛んだ紙切れを拾い、記入用紙と一緒に受付のお姉さんに渡した。


「先に言っておくとさ、たぶん勧誘が凄い来ると思うよ」

「勧誘ってどこにですか?」

「パーティーにだよ。
 計測紙を壊すくらい魔力量がある人ってそうそういないから、大変優秀な魔法使いだと思われるはずさ」

「へっへー、そうなんですか!」


 このことが知れ渡り、ライン街のアイドルになれるかもしれない。
 ニヤニヤしていると、受付のお姉さんに名前を呼ばれた。


「リッカ=トレントさん。
 先ほどの計測紙が紫色だったので、魔力値は『S級』とさせていただきます。
 その他の値は計測していませんが、一つでも項目が『S級』であった場合、自動的に『A級冒険者』となりますのでご了承ください」


 お姉さんから金色のカードを受け取り、グレンの元に戻る。
 私の名前のほかに、ギルドの刻印や冒険者階級などが書かれている。


「これ、本当に証明書になるんですか?
 ほかの人の拾っても使えません?」

「あぁ、それはね……」


 グレンが私からカードを取る。
 すると、金色だったカードが黒色に変わった。


「自分以外の人が持つと、こうやって色が変わるんだ。
 だから盗もうと思う人は居ないだろうけど、再発行にお金がかかるから気を付けてね」

「はーい。
 冒険者階級はどんな意味があるんですか?
 とっても割引されたり?」

「それはクエストの受注の際に必要なんだ。
 普通は自分と同じ階級のクエストしか受注できない」


「私はA級だから、A級のクエストしか受注できない……」


『討伐』とかかれた掲示板にチラッと目をやる。
 A級の張り紙には、どれもこれも厳つい魔物や気色悪い魔物ばかり……。
 やっぱり、私がクエストを受注することはないだろう。

 ひとまず、これで冒険者(仮)は卒業。
 これからは『A級冒険者大魔法使いリッカちゃん』として過ごしていくことになった。

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