異世界転生を司る女神の退屈な日常

禿胡瓜

第89話 「想像の差異」

 
 この世界に来て、これほど大きな建物に入ったのは初めてだ。
 入ってすぐに大ホール。
 流石お城だけあって、煌びやかな装飾がいたるところにされており、噴水までもある。
 正面には大きな階段があり、二階へ続いていた。

 そんな豪勢な建物だが、そこに居るのは鎧を着こんだむさ苦しいおじさんや暗い色のローブを着た女の子だ。


「一階は雑貨屋、食堂、宿屋。
 二階にギルドの本質的な役割を持つ集会所がある。
 三階が職員の仕事場で、あとは屋上があるね」


 二階に上がり、赤い絨毯に沿って進むと、いかにも『王の間』に出た。
 奥のほうにカウンターがあり、女の人が何人か立っている。
 人はそれなりの数がいるのだが、やけに静かだ。
 腐っても『王の間』だ。
 私も変に騒がないように口を噤む。
 部屋の左右には大小さまざまな掲示板が並んでおり、たくさん張り紙がされていた。
 正面には机が設置された玉座が二つあり、若い男女が座って一所懸命に書類の山と戦っている。


「……王様と女王様が居ますね」

「あれはね、新人教育の一環らしいんだ。
 人の目に慣れることで、接待の時に緊張しないようにするんだってさ」

「はえー」


 私は大勢の前に立つことが苦手だ。
 今でも、天界での表彰式のことを思い出すとブルってしまう。
 私が「玉座に座って仕事をしろ」となんか言われたら……諦めてしまうかもしれない。


「クエストの完了報告と冒険者申請用の紙をもらってくるからちょっと待っててね」


 グレンが一つの列に並ぶ。
 しばらく時間がかかりそうだから、そこらにある張り紙を見てみよう。

 掲示板にはそれぞれ見出しが振ってあり、『討伐』『採取』『調査』『運搬』と書かれている。
 一番張り紙の数が多い『討伐』を見てみる。

 張り紙には、魔物の名前と共にとてもリアルな絵が描かれていた。
 とてもおどろおどろしい見た目の魔物だ。スタイリッシュな触手人間という表現がぴったり。
 1体討伐すれば完了らしいので簡単だと思いきや、その下に『A級』と書かれていた。
 きっと難しい部類なんだろうなと思い、成功報酬を見て驚いた。
 何と紫貨が20枚もらえるらしい。

 確か、紫貨一枚で宿屋に300回泊まれるから……6000回も泊まれる。凄い!

 ぶったまげながらほかの張り紙も見てみると、ほとんどの成功報酬が紫貨10枚を下らない。
 ここのクエストを一つ終わらせるだけで、しばらく遊んで暮らせそうだ。


「リッカ、お待たせ。
 ちょっとめんどくさいけど、この紙書いてもらうよ」

「……グレンさん、ここのクエストってなんかすごいヤツばかりですね」

「あぁ、それはここが世界各地にあるギルド本部だからってのに加えて土地のせいだろうね。
 渡航費とか、食事代とかも含めるから報酬が割高になってるんだ。
 その分、クエストの難しさも上がる」

「私が想像していたより、ずっと大変そうです……」

「いろんなところに行けるから結構楽しいよ?」


 グレンがニコニコしながら開いている机に座った。


「さぁ、早く書いてご飯でも食べに行こう」


 ……私は冒険者になっても絶対にクエストを受注することはなさそうだ。
 冒険者という職業に少しだけ恐れを抱きながら、ペンを手にした。

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