異世界転生を司る女神の退屈な日常

禿胡瓜

第88話 「ライン街」

『天空人=女性』という考えが定着しているらしい。
 船には乗客の大多数を占めていた男性が降り、連れられた女性客と同伴の人しか残っていなかった。
 その中にグレンを見つけ、混雑することなく地上に降り立つことが出来た。


「色々ありましたけど、遂に着きましたね!
 まだ船の上に居るような感覚です!」

「分かるよその感覚。
 昔はなれなくて具合が悪くなってたなぁ」


 乗船の時と同じようなチェックを受け、街の入り口に立つ。



「そういえばリッカ、君はライン街に来たがっていたが、どこか行きたいところがあるのかい?」

「……そうですねぇ」


 当初の目的は、『この世界最大の都市であるライン街に行けば、この世界のことが分かるだろう』という考えだった。
 目標の街に辿り着くことが出来たが、果たして本当に情報収集は私にできるのだろうか。
 とりあえず、目指すべきところは……。


「冒険者ギルドですかねぇ」

「うん、冒険者としての証明書も欲しいしそれが良いだろうね」


 グレンと共に、一番高い所にそびえる城を目指して歩き始めた。


 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


 ライン街の構造は、非常に面白い。
 ぐるっと街を一周できる大きな通りが外側から内側にかけて9つある。
 外側から『一週目通り』『二週目通り』と名付けられており、1~5週目にはお店が並んでいる。
 6~8週目は、住宅通り。9週目が貴族通り。そして10番目にお城があるという感じだ。


「リッカ、ほらフラフラしないで」

「でも、でも、グレンさん。すっごいピカピカしてますよ」


 お城を目指すには、いくつものお店の間を通り抜けないといけない。
 視界に映るお店一つ一つが、どこか特徴的で目を惹かれてしまう。
 商店通りを一周するのなら、一日では絶対に足りないだろう。


「……ギルドに行く前に見ちゃダメですか?」

「うーん、まあ良いけど……。
 でも、冒険者だと割引してくれるお店もあるからさ。
 最初にギルドに行って、証明書をもらってからのほうがいいと思うよ」


 お金に不自由はしていないが、浪費するつもりはない。
 割引されるというのなら、ギルドを優先してもいいだろう。


「……わかりました。
 ギルドに行きましょう」


 誘惑を抑え、グレンに従う。
 やっとの思いで住宅通りにたどり着く。
 商店通りの喧騒が嘘のように静まり、のどかな街並みが広がっていた。


「この島に住んでいる人がうらやましいです。
 きっと毎日楽しく買い物ができますね」

「大昔はもっと静かな島だったらしいんだ。
 魔王が出現する前、『王国』だった頃は3から8通り目までが住宅街で、商店通りは二つだけだったんだ。
 国が統一されて、貿易の中継地点になった途端……これさ」


 グレンがどこか寂し気な表情をしてつぶやく。
 あまりこの状況を好ましく思っていないのだろうか。

 住宅通りを抜けると、お城はすぐ目の前だ。
 お城を取り囲むように大きな建物がたくさん見えてくる。
 これが貴族通りだろう。


「あれ? そういえば、王様は居ないのに貴族はいるんですね」

「うん、国が統一されて王様が居なくなっても仕事は結構あるんだ」

「仕事! 仕事するんですか貴族!」


 私の知っている貴族は、毎日パーティーをして遊んでばかりいる。
 仕事とは無縁の存在である成金だった。


「もちろんさ。
 土地や街の管理だとか、財務とか……外交だとか」

「外交、外交ですか? 国が一つなのに?」

「……君の仲間、天空人との外交さ。
 国のトップは魔王討伐に乗り気だ。その為には天空人と協力しなければならない」


 貴族も思ったより大変そうだ。
 私が見てきた限り、天空人を嫌っている人はそれなりに居る。
 天空人だと疑っただけで殺そうとしてくる人もいる。
 それなのに、天空人の協力を取り入れないといけないだなんて、内部からの反発も強そうだ。


「リッカ、着いたよ。
 ここからが冒険者ギルドだ」


 いつの間にか貴族通りを抜け、城の入り口が目の前にあった。
 見た目よりも軽い扉を押し開き、中へ入った。


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