異世界転生を司る女神の退屈な日常

禿胡瓜

第78話 「際疾い抵抗」

 
 あっ不思議な感じ。
 なんだが空に浮いてるみたい。

 ベッドの上で少しだけ覚醒してそう思った。

 船の揺れが心地よく、まるで風に乗っているようだ。
 ……壁の軋む音が無ければ最高の居心地なのだが。

 低い天井に頭をぶつけないように身体を起こし、窓から外の光景を拝む。
 待ちわびていた光景が、そこにあった。

「わぁ! すごい!」


 真っ青な大海原。朝陽がキラキラと水面に反射してまぶしい。
 どこまでも見渡せる水平線は、不安になるくらい何も見えない。
 しばらくの間、窓に鼻をくっつけて海を眺めていると扉がノックされた。


「はーいー、どうぞー」

「やぁ、おはようリッカ」


 扉が開き、グレンが部屋に入ってくる。
 いつも以上にラフな格好だ。
 鎧も着てないし、腰に剣も下げていない。


「甲板で朝食を食べられるらしいんだ。
 行ってみよう」

「行きますー!」


 狭い廊下を、船に揺られながら歩く。
 昨日の夜と違い、人とのすれ違いが多い。
 狭いからすれ違う時は一苦労だ。

 甲板への扉を開けると、視界いっぱいに海が広がる。
 そこそこ広い甲板には、ところどころにパラソルが刺さっており、日陰にテーブルが置かれていた。
 海をよく見渡せる席に着き、朝食が届くのを待つ。


「グレンさんは、船旅には慣れているんですか?」

「うん、慣れてる方だと思うよ。
 そもそも家がライン街にあるし、ここらの冒険者ならみんなこの船に乗るんだ」

「……前から気になってたんですけど、グレンさんのお家って大きそうですよね」

「うーん、父の仕事柄、大きいほうではあるね」

「へぇー、お父さんはどんなお仕事をされているんですか?」

「それはまた今度話そうと思うよ。
 ……お待ちかねの朝食が来たようだ」


 テーブルの上に皿が置かれる。
 肉や野菜がパンに挟まれた食べ物だ。
 構造だけ見るとサンドウィッチのようだが、パンの形が全然違う。
 パンの『耳』が主体となっており、わずかに焼かれているようだ。
 サンドウィッチとは違う感触が楽しめそう。

 よく見てみると、肉が僅かに発光していることに気が付いた。


「……これも『ケート』ですか?」

「そうそう、なにせ『名物』だからね」


 また『ケート』か……。
 味は悪くない。むしろ美味しい。
 昨日食べたかき揚げなんて、一か月は食べても飽きないと思う。

 ただ、調理されてからも『音に反応して光る』という特性が失われていない。
 つまり、食べている最中も光るのだ。

 昨晩、かき揚げを食べている最中に気が付いてしまった。
 グレンが咀嚼していた『ケート』の輝きが口内から漏れ、鼻の穴が光り輝いていたことを。

 魔法庫からナイフとフォークを取り出し、ケートサンドを少し切り分ける。
 やはり、音に敏感だ。皿と擦れるだけで輝きが増す。
 フォークでゆっくりと口に運び、歯とぶつからないように押し込んだ。

 あぁ、やっぱり美味しいなぁ。
 ゆっくりと噛みしめている為、いつもよりも深く味わっている気がする。
 正直、同じ肉でも魚以外の肉のほうが好きだ。
 比較すると、魚のほうがどうしても淡白な味だからだ。

 だが、『ケート』の場合、話は別だ。
 小魚の割に、脂乗りがよく『旨味』がしっかり出ている。
 しかもそれが大群で口の中に入る。
 この時にはもう、『淡白な魚の味』なんて忘れてしまう。旨い。
 食感もまた不思議で、トロトロとしている。
 これが他の食材とうまく絡まって最高だ。


「……やっぱり君は美味しそうに食べるね。
 見ていて飽きないよ」

「昔から食べることが一番の楽しみなんです」


 正確には、それ以外に娯楽がなかった。
 だからこそ、食事の場が一番楽しく、話も弾んだ。
 ふと、エリカ達のことを思い出す。
 彼女たちなら、この食べ物を食べたらどんな反応をするだろうか。


「ところでリッカ、今日はやけにお淑やかに食べるんだね」

「ゆ、ゆっくり食べたほうが味わえることに気づいたんですよ」

「へぇ、昨日の夜はあんなに鼻の穴を光らせてたのに」

「なななんでそれ言うんですか!
 普通黙って心の中にしまいませんか!?」


 こっちの世界に来てからも、相変わらず食事の時間は楽しい。
 私が堕天してから、天界ではどれくらいの時間が流れたのだろうか。

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