異世界転生を司る女神の退屈な日常

禿胡瓜

第77話 「検索、検索」

 
 監視課入口の黒いドアの前に立つ。
 相変わらず自動ドアのセンサーはボクを捉えない。
 両手を上げてジャンプすることで、やっとドアが動き出す。

 受付でカナエを呼び出してもらう。


「オォ、よく来たミーの相棒ヨ。
 こっちへカモンだヨ」


 わざとらしいカナエの呼びかけに応じ、ついていく。
 個人的な依頼は違反の為、なぜかボクはカナエへの『ミルク配達員』という扱いになっている。
 慣れてきた廊下を歩き、カナエの部屋へ辿り着いた。


「……なんかぬいぐるみ増えてねーですか?」

「オォ! よく気が付いたネ!」


 カナエがそう言いながらぬいぐるみを投げ渡してくる。
 ペンギンとペンギンとペンギンだ。


「女神エリカ消失発見のご褒美で、上司からもらったんだヨ!」

「……天使扱いなのですね」


 もしかしたら、部屋を埋め尽くすぬいぐるみ一つ一つが、カナエの功績なのかもしれない。

 カナエはボクの腕からペンギンを二つ取り上げる。


「ぶっちゃけ、今回はテンシに言われないと気が付かなかったヨ。
 だから一匹あげるネ」

「……ありがたく受け取っておくのです」


 ベッドの上のぬいぐるみを押しのけ、空いたスペースに座る。


「……監視課が発表した『異世界の穴』について。
 あれは本当なのですか?」

「本当かもしれないし、そうじゃないかもしれないヨ。
 まぁ、混乱防止みたいな感じだネ
 実際、研究課は『空間特異点』を使ってアレコレしてるからネ」


 それは知らなかった。
 研究課が食堂を開いていられる理由がやっとわかった。
 転生課と協力でもしているのかと思っていたが、どうやら自ら『異世界の穴』を使っているらしい。


「……じゃあ、研究課で『異世界の穴』に引き込まれる事故とかあるのではないのですか?」

「イヤーそれはないネ。そもそも穴に引き込まれることはないし、仮に穴に落ちたとしても簡単に戻ることも、助けることも出来るヨ」

「……やっぱり、エリカが異世界に行ってしまったということは無いのですね」

「そもそもあの家で穴は観測られてないしネ」


 正直、エリカは異世界へ行ってしまったというほうがよかった。
 アテもなく消えてしまうより気が楽だし、リッカを追うという理由もある。


「今回の騒動は、これ以上何も言うことはないヨ」

「……今日来た目的は、それ以外にあるのです」


 魔法庫から今日欠勤した女神のリストを取り出す。


「エー、なんかまた厄介ごとっぽいネ
 ミー最近働き詰めで疲れたからゆっくりしたいヨー」

「……別にまだ厄介ごとと決まったわけじゃないのです。
 ただ、今日欠勤した女神のリストなのですよ
 現在の居場所を調べてほしいのです」

「何度も言うけどサー。
 違反行為なんだよネ、個人の依頼を聞くのはサー」

「……こんなところにミルクがあるのです」

「少しだけだからネ!」


 カナエが手をパチパチとたたくと、部屋中に映像や文字が浮かぶ。


「ンー、32人も検索しないといけないのかヨー。
 アイメールに、ミッシェル、ランゼータ、リリカ…………」


 カナエの指が文字盤の上を高速で動く。
 一人一人の名前を打ち込んでいるらしい。


「ンーー!検索ゥ!」


 映像の一つが大きくなり、立体的な地図になる。
 中央に浮いた建物がある為、天界の地図だとすぐにわかった。
 小さく光る丸が各地いくつもある。


「ホラ、これでいいんショ?」

「……上出来なのです」


 カナエにミルクを手渡しながら、光の場所を確認する。
 大半が図書館、他が自宅といった感じだろうか。
 図書館が充実しすぎたせいで、仕事を欠勤する……というよりサボる原因になっているようだ。
 彼女の遺してくれた物なのに、なんとも言えない気持ちになる。

 そして、最後に一番気になっていたことを確認した。


「……ひい、ふう、みい」

「アーなに? 数えてるノ?
 ホラ右下の数字! これが検索した人数だヨ!」


 そこにはしっかりと『32』という数字があった。
 念のため数えた光の数も、しっかりと32人分あった。

 杞憂でよかった。
 もしかしたら欠勤ではなく、エリカのように消えてしまった女神がいるのではないのかと心配したのだ。


「……カナエ、助かったのです。
 また何かあったらお願いするのです」

「ウヒョー! もう一本くれるのかミルク!
 いつでも来ていいヨ!」


 カナエにミルクをもう一本渡し、監視課を後にする。
 ボクはもう一度、エリカの消えた理由と探す方法を模索しなければ。

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