異世界転生を司る女神の退屈な日常

禿胡瓜

第74話 「斎藤寝具店」

 

「リッカ、荷物は全部持ったかい?」

「あーえーっと、たぶん大丈夫です!」


 持ち物の確認を目視で出来ないのが、魔法庫の不便な点だ。
 昔から出したらしまうを徹底している為、きっと大丈夫なはずだ。

 宿屋を出ると、冷たい夜風が吹き付ける。
 星は見えない。残念ながら、曇り空だ。

 グレンと共に、船着き場に向かう。
 海に面した大きな建物に入ると、既に同じ船に乗る人がたくさんいた。
 長い列がいくつかできている。
 どうやらここで最終チェックを受けるらしい。


「リッカ、これが乗船券だ。
 あそこの人に渡すと、船の中に入れる。
 ライン街へ行く目的を聞かれたら『クエストの完了報告』と言えばいい」

「ちょろいですね」


 乗船券を受け取り、グレンの後ろに並ぶ。
 少しずつ進む列に並びながら、周りの人を観察していると
 なにやら前のほうが騒がしい。


「知らねえ!俺のじゃねえよ!」

「密輸だ。連れてけ!」


 必死に叫ぶ男が、何人かの屈強な男たちに捕まってどこかに連れていかれる。
 こ、怖い。


「ど、どうしたんでしょうね」

「たぶん、生き物でも持ち込もうとしたんじゃないかな?
 時々居るんだ、関税を支払いたくないからって隠して一般の列に並ぶ人」


 生き物。
 生き物は持ってないから大丈夫、大丈夫……。


「この本はダメだな。禁止表現が含まれている」

「えぇ!? そんな!
 以前は平気でしたよ!」


 またしても、何かあったようだ。
 本を取り上げられている。
 ま、魔導書は平気ですか。

 いつの間にかグレンの番になっていた。
 目の前でリュックを広げ、いくつか質問に答えている。
 そんなに質問されるなんて聞いていない。

 グレンは無事にチェックを終え、ついに私の番になった。
 緊張しながら、強面審査官の前に立つ。


「……名前は」

「りりリッカ、よんひゃく……じゃなくて、20歳です!」

「年までは聞いてないんだがな……」

「ご、ごめんなさい」


 審査官が不審そうな顔をする。


「荷物を見せてくれ」


 背負っていた杖、ポケットに入れた硬貨袋を台の上に置く。


「……これだけ?」

「はい……」


 魔法庫の中身は出さなくていいだろう。
 膨大な量があるし、チェックに引っ掛かりそうで怖い。
 審査官が杖を調べ、袋を開けて中身を確認した。


「ライン街へ行く目的は?」

「く、クエストの完了報告です」


 審査官の目が細くなり、私のことをジロジロと見始めた。


「冒険者だよな? それにしては荷物が少ないな」

「えっ、ええっと、それはですね……」


 いつも魔法庫に頼っているのが仇となったようだ。
 確かに、周りの冒険者らしき人は皆リュックやポーチなどの入れ物を持っている。
 それに比べて、私は杖と硬貨を入れた袋だけ。
 これはこれで怪しい。

 なんとか良い答えを探していると、不安そうな顔のグレンと目が合う。


「あ、あの人! あの人に荷物持ってもらってます!」

「……本当か?」


 審査官がグレンの方をジロリと睨む。


「本当だ。リッカは僕の連れだ」

「……まぁいいだろう」


 通行の許可を出され、一息吐く。
 おぉ怖かった。


「さすがリッカ、知恵が働くね」

「もう!本当に怖かったんですから!
 あんなに質問されるとは思わなかったです!」


 ようやく船に乗り込み、甲板に出る。
 これでナイーラ港ともお別れだ。
 まだ近くに居るのに、港街の喧騒がどこか遠くに聞こえた。

 しばらく街を眺めていると、ようやく船が動き出す。
 いよいよライン街へ向けて出発だ。

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