異世界転生を司る女神の退屈な日常

禿胡瓜

第73話 「再会の大男」

 
「どうだった?」

「相変わらずでしたよ。
 ほとんどだんまりでした」


 少し離れたところで待機していたグレンと合流し、港街に向けて歩き出す。
 本当はグレンに『異世界』の存在を知っているか聞いてみたい。
 だが、異世界の存在を知らない者に異世界について聞くのは要らぬ混乱を生むだけだと思い、やめておく。
 一先ずはライン街に辿り着いてから考えよう。

 港街の門が見えてくると、馬車が列になって止まっているのが見える。
 出てきた時は居なかった。


「あれは……キャラバンだな。
 物を売り果たしてライン街に帰るところだろうな」


 馬車の周りには談笑する人がたくさんいた。
 一目で冒険者の類だとわかる。


「あんなにたくさんの冒険者、初めて見ました」

「護衛のクエストでも請け負っていたんだろう。
 腕に自信のない冒険者でも、多くの経験を積めるから人気なんだ」


 馬車の脇を歩きながら門をくぐろうとすると、見覚えのある顔が遠くにあった。


「あれって……」

「ベンガルだな」


 ナーゲル村での出会いを思い出す。
 一見、陽気なおじ様だが侮れない。
 ベンガルはたぶん、私のことを『天空人』だと思っている。
 どんな顔で会えばいいかわからない。

 そんなことを考えているうちに、ベンガルがこちらに気づいてドスドスと近づいてくる。
 やっぱり大きくて怖い。


「ガハハハ!生きてたか!ガハハ!」

「わわ、あわわわ」


 大きな手で肩をがっしりと掴まれて振り回された。


「ベ、ベンガル! もうちょっとやさしくしてやってくれ!」


 グレンが慌てて止めに入る。
 もう遅い、首がガクガクする。。


「まぁ、グレンが一緒なら当たり前か。ガハッハッハ!」


 正直、私は嫌われてると思っているばかりだったから、変わらない陽気さで安心した。


「ベンガルは……キャラバンの護衛か?」

「まぁな。魔物どもは俺の姿を見るだけで逃げてくから、楽な仕事だぜ」


 これだけの護衛の数が居て、なおかつベンガルのような大男が居るのなら、逃げたくなる気持ちはよくわかる。
 雇う側も、戦闘を未然に防ぐことが出来る為、ありがたく思っているだろう。


「お前ら、ライン街に向かうんだろう?
 船はどうだ? すぐに乗れるのか?」

「僕たちが来た時で二日待ちだった。
 キャラバンがライン街へ向かうのならば……一週間は待つハメになるだろうな」

「いやーまいったな。一週間も宿で待ちぼうけか」

「……宿も厳しいと思うぞ。一つ吹き飛んでいるからな」

「ガハハ……冗談キツイぜ」


 ベンガルが悲しそうな顔をすると、皺が濃くなり一気に老けて見えた。
 かわいそう。朗報を届けてあげよう。


「新しい宿屋がありますよ。
 昨晩建てられたばかりなので、まだ宿泊客もいないはずです!」

「本当か!嬢ちゃん!」


 輝く顔のベンガルに宿屋の場所を教える。
 私の頭をグリグリと撫でてから、ベンガルは宿屋に向けて駆けて行った。
 遠くなる「ガハハ」という笑い声を聞いていると、グレンが不思議そうな顔をしていることに気が付いた。


「昨日、グレンさんが寝ている時に建てちゃいました」

「……こんど野宿の時に建ててもらおうかな」

「えー、お星様が見えなくなっちゃうじゃないですかー」

「じゃ、じゃあ、どうかベッドだけでも」

「……考えておきます」


 野宿の一つだって、私にとって貴重な体験なのだ。
 必死にお願いするグレンを尻目に、船上で過ごす夜にも夢を膨らませていた。

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