異世界転生を司る女神の退屈な日常

禿胡瓜

第64話 「共鳴」

 
「ヒーハー?」

「ヒーハー!」

「アバババババ」

「アバババババ!」

 カナエを家に連れてきた途端これだ。
 父とカナエはなぜか気が合うらしく、いつもボクにはわからない言語で話始める。


「あら? カナエちゃん?いらっしゃい」

「ハーイ! お邪魔してまス」

「アババ?」

「アバババ!」

「ケーキとクッキー、どっちがいいかしら?」

「クッキー!」

「びんどろ?」

「すっちょ!」


 カナエが父と母、両方を相手に巧みに言語を操って会話する。
 せめて誰かと会話している時ぐらい、父は自重するべきだ。


「……カナエ、ボクの部屋に行くのですよ」

「アァ!おじさん!へなーチョ!」


 嘆き惜しむカナエを無理やり引っ張って部屋に連れ込む。
 放っておいたらいつまでもやりかねない。

 ウダウダする部屋のベッドに座らせ、隅に転がっていたネコのぬいぐるみを持たせると大人しくなる。


「……それで、早くエリカについて知ってることを教えるのです」

「ンー? クッキーを要求すル!」

「……クッキーならほっといても来るのです!
 はーやーくー!」


 カナエはぬいぐるみを手にしたまま目を瞑り、知らん顔をする。
 こうすると要求通りに『クッキー』が来ないと話が進まない。

 カナエは昔からこのように『対価』を要求する。
 ケチなのか合理的なのか……。
 歯がゆい中、カナエと共にクッキーを待つ。


「入るよー。
 はい、どうぞ」


 部屋の扉が開き、クッキーを盛り合わせた皿とミルクの入ったコップを二つ持った母が入ってくる。
 ボクの大切な貯蔵が……!


「ワハァ!クッキー!とミルク!」

「……ほら、早く食べるのです。ほらほら」


 母が部屋から出るのを見届けると、カナエの口に無理やりクッキーを押し込んだ。
 嬉しそうだ。
 口いっぱいのクッキーをミルクで流し込むと、満足そうな顔をした。


「……早くエリカについて知ってることを話すのです」

「ンー? なにも知らないヨ!
 『考察を重ねた』って言っただけじゃーン」


 腹立たしい。
 クッキーを投げつけた。それも宙で食べられる。
 なんとも遺憾だ。


「その考察でいいので話すのです!」

「話す為に来たんだシー」


 くつくつ煮える腹にミルクを流し込み落ち着かせる。
 カナエに流されちゃだめだ。


「……ん!」

「あいあいサー」


 カナエが手を叩くと、部屋が薄暗くなる。
 部屋中に文字が流れ、小さな映像がたくさん浮かびあがった。
 カナエの部屋で見たやつだ。
 仕事場じゃなくてもできるんだ……。


「ミーが考えたのは、『情報が意図的に操作された』ってことネ」

「……誰かがエリカの情報を消したってことなのですか?」

「まーそゆことネ。
 でも、話はそれだけじゃないのサ」


 カナエが現れた文字盤を叩くと、一つの大きな映像が現れた。
 簡単な図面の中に、黄色い光が二つ。
 その図面が、ゆっくりと詳細な物に変化し、立体的な長方形の図形になる。
 これは……。


「……ボクの家なのです
 ということは、この光がボクとカナエで、こっちがお父さんとお母さん?」

「ソソ」


 カナエが部屋中を飛び回ると、それに合わせて光も動く。


「こんな感じで、一人一人の波長を追ってミー達は丸見えなのサ!」


 監視体制について噂は聞いていたが、まさかここまでだったとは……。
 会話なども本当に監視しているのかもしれない。


「……丸見えなのはわかったのです。
 それで何なのですか?」

「ンーとね、この波長は監視かのデータベースに登録されているんじゃなくて一人一人が情報そのものなのサ」

「……言ってることが分からないのです」

「その人の意思が情報として直接発信されていて、それを探知してるのサ」

「……わかんないのです」

「ンガー!つまり、データベースに登録される情報ではないから消すことはできないノ!」


 データベースに登録されている情報から検索するのではなく、エリカが発する情報を直接検索するというわけか。


「……それで検索した結果はどうなったのですか?」

「『存在しない』ってサ」

「……随分とポンコツなのですね」

「待って待って誤解だヨ!
 つまりだよつまり! もしかしたら発している情報を探知できないところに居るかもだヨ!」

「……珍しく優しい言い方をするのですね」


 いつも結果だけを言うカナエが、『もしかしたら』を口にするのは滅多にない。


「ミーだって気になりまス。
 一家族が監視の目を免れて消えるのは考えられないケド、テンシが嘘を言うはずもないのデス。
 だから、きっと何か……よくないことが起きているかもしれないと思ったんだヨ」
 そうだとしたら、ミー達監視課が一番に動かないト」


 カナエがクッキーを齧りながらぽつりぽつりと話す。
 カナエに相談して良かった。


「……エリカの発する情報が探知できないところはどこなのですか?」


 カナエがクッキーを食べ終えて空いた手を、地面に向けて指さした。


「地獄、地獄だヨ」

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