異世界転生を司る女神の退屈な日常
第58話 「仕様がないイタズラ」
グレンには申し訳ないが、私も心を鬼にしなくてはならない。
これからの冒険の為にも、今晩の過ごし方の為にも、必要なことなのだ。
「グレンさんのバーカ!」
突然の誹謗中傷に、グレンは驚きを隠せなかった。
昼食を済ませ、海の見えるベンチで食休みをしている時
ふと、おぼえたばかりの『周囲の仇をなす者を察知する魔法』の効果を試してみたくなり、とりあえずグレンを罵倒してみる。
グレンが私に怒りを覚えれば、魔法の効果が出るかもしれない。
十分に怒らせてから、魔法を発動してみよう。
「べろべろばー!」
「えっと、どうしたの?」
色々と悪口を言おうと思ったが、全然思い浮かばない。
とりあえず馬鹿にしてみたが、グレンは怒るというよりただ困惑しているだけだ。
悪口作戦は失敗だ。次の作戦に移ろう。
「グレンさん、荷物置いて立ってください」
「えっ? まぁいいけど……」
グレンがリュックをベンチに置いて立ち上がる。
「ポケットの中には何も入っていませんか?」
「入ってるけど……」
「じゃあ、それも出してください」
グレンがズボンのポケットから銅貨やポーチを取り出すと、ベンチの上に置いた。
「こっち、ここに立っててください」
グレンのことを誘導し、海沿いに立てせる。
地面の縁に座れば、あと少しで海に足が着くというような高さだ。
どうせすぐ魔法で乾かすことが出来るんだ。
多少の犠牲はやむを得ない。
自分にそう言い聞かせながら、グレンのことを海へ突き落した。
何が起きているか理解できていないグレンが、海へ吸い込まれていく。
学生時代以来だなぁ、誰かを困らすの。
まぁ魔法の効果を確かめる為だから仕方がない。仕方がない。
大きな水しぶきが収まると、そこには茫然とした顔のグレンが居た。
さすがにこの理不尽さには怒りを覚えるだろう。
「グレンさん、今どんな気持ちですか?」
「この期に及んでそんなこと聞くのかい?」
グレンに杖を伸ばして引き上げてやる。
ずぶ濡れのグレンは、少しだけ不機嫌そうな顔をしていた。
早速、魔法陣を生成し『周囲の仇をなす者を察知する魔法』を発動してみた。
……
……なにも変化がない。
「グレンさん、怒ってないんですか?」
「いや、怒ってるよ」
「怒ってるんですか!」
なるほど。
つまり、この魔法は怒りを向けられた程度では反応しない。
明確に敵意や殺意のようなモノが向けられないと発動しないのでは……?
「それで? どうして僕のことを海に突き落としたんだい?」
「それはですね……」
グレンの顔は薄く笑っているが、目が笑っていない。
順調に怒ってしまった。
魔法について一通り説明して謝ると、グレンは大きくため息をついた。
「話は分かったけど、君がこんなことをするとは思わなかったよ」
言葉が胸に突き刺さる。
なんていうか、謝って済みそうじゃない。
「絶対さ、もっと良い方法あったよね。
わざわざ海に落とさなくてもさ。服もずぶ濡れだし」
「あっ、服ならすぐに乾かせます!」
「そういう問題じゃないよね」
ビシッと言われ、口を噤む。
短絡的にグレンを怒らせようなんて考えなければよかった。
いまさら後悔しても遅い。
縮こまりながらグレンの説教を聞く。
「あっ」
一つ一つの言葉が身に染みていた瞬間、脳裏に電気が走ったような気がしてハッとする。
後ろだ
そう『察知』して振り向いた。
人通りのない道の向こう、日の当たらない裏路地から『気配』を感じ取った。
「リッカ、人の話を聞くときはしっかり目を見るんだ」
「違くて、あっちあっち!なんかヤバイ感じです!
魔法に反応したんです!」
「なんだって……」
グレンも私の指した方向を見た。
だが、もう既に魔法で察知した『気配』はそこになかった。
これからの冒険の為にも、今晩の過ごし方の為にも、必要なことなのだ。
「グレンさんのバーカ!」
突然の誹謗中傷に、グレンは驚きを隠せなかった。
昼食を済ませ、海の見えるベンチで食休みをしている時
ふと、おぼえたばかりの『周囲の仇をなす者を察知する魔法』の効果を試してみたくなり、とりあえずグレンを罵倒してみる。
グレンが私に怒りを覚えれば、魔法の効果が出るかもしれない。
十分に怒らせてから、魔法を発動してみよう。
「べろべろばー!」
「えっと、どうしたの?」
色々と悪口を言おうと思ったが、全然思い浮かばない。
とりあえず馬鹿にしてみたが、グレンは怒るというよりただ困惑しているだけだ。
悪口作戦は失敗だ。次の作戦に移ろう。
「グレンさん、荷物置いて立ってください」
「えっ? まぁいいけど……」
グレンがリュックをベンチに置いて立ち上がる。
「ポケットの中には何も入っていませんか?」
「入ってるけど……」
「じゃあ、それも出してください」
グレンがズボンのポケットから銅貨やポーチを取り出すと、ベンチの上に置いた。
「こっち、ここに立っててください」
グレンのことを誘導し、海沿いに立てせる。
地面の縁に座れば、あと少しで海に足が着くというような高さだ。
どうせすぐ魔法で乾かすことが出来るんだ。
多少の犠牲はやむを得ない。
自分にそう言い聞かせながら、グレンのことを海へ突き落した。
何が起きているか理解できていないグレンが、海へ吸い込まれていく。
学生時代以来だなぁ、誰かを困らすの。
まぁ魔法の効果を確かめる為だから仕方がない。仕方がない。
大きな水しぶきが収まると、そこには茫然とした顔のグレンが居た。
さすがにこの理不尽さには怒りを覚えるだろう。
「グレンさん、今どんな気持ちですか?」
「この期に及んでそんなこと聞くのかい?」
グレンに杖を伸ばして引き上げてやる。
ずぶ濡れのグレンは、少しだけ不機嫌そうな顔をしていた。
早速、魔法陣を生成し『周囲の仇をなす者を察知する魔法』を発動してみた。
……
……なにも変化がない。
「グレンさん、怒ってないんですか?」
「いや、怒ってるよ」
「怒ってるんですか!」
なるほど。
つまり、この魔法は怒りを向けられた程度では反応しない。
明確に敵意や殺意のようなモノが向けられないと発動しないのでは……?
「それで? どうして僕のことを海に突き落としたんだい?」
「それはですね……」
グレンの顔は薄く笑っているが、目が笑っていない。
順調に怒ってしまった。
魔法について一通り説明して謝ると、グレンは大きくため息をついた。
「話は分かったけど、君がこんなことをするとは思わなかったよ」
言葉が胸に突き刺さる。
なんていうか、謝って済みそうじゃない。
「絶対さ、もっと良い方法あったよね。
わざわざ海に落とさなくてもさ。服もずぶ濡れだし」
「あっ、服ならすぐに乾かせます!」
「そういう問題じゃないよね」
ビシッと言われ、口を噤む。
短絡的にグレンを怒らせようなんて考えなければよかった。
いまさら後悔しても遅い。
縮こまりながらグレンの説教を聞く。
「あっ」
一つ一つの言葉が身に染みていた瞬間、脳裏に電気が走ったような気がしてハッとする。
後ろだ
そう『察知』して振り向いた。
人通りのない道の向こう、日の当たらない裏路地から『気配』を感じ取った。
「リッカ、人の話を聞くときはしっかり目を見るんだ」
「違くて、あっちあっち!なんかヤバイ感じです!
魔法に反応したんです!」
「なんだって……」
グレンも私の指した方向を見た。
だが、もう既に魔法で察知した『気配』はそこになかった。
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