異世界転生を司る女神の退屈な日常

禿胡瓜

第55話 「ちびっ子同盟」

 エリカという女神の存在を知ったのは、ボクの生涯から見るとごく最近のことだった。
 天使学校から女神学校へ、同期でなくとも同じ建物に居たというのは間違いないだろう。
 ただ、学校に通う人数が果てしなく多い。
 だから、知らなくてもしょうがないといえる。
 故に、消えたエリカを探すのは難しかった。
 数人の友人から話を聞いてみたが、そもそもエリカの存在を知る人は居なかった。

 エリカのことを知る人が居ないのならば、専門『課』に頼って探すべきだ。
 仕事の合間を縫って、天界に住んでいるあらゆる神々を監視しているといわれる『監視課』へと訪れた。

 監視課は、転生課と同じく中央局に存在する。
 監視する内容は一般には知られていない。
 睡眠時間や勤務時間などの生活だけを監視、記録しているという話もあるし
 喋った相手や内容、歩いた距離までも監視しているという話もある。
 実際のところ不明だ。
 だが、一つだけ情報を開示してもらう方法がある。
 それは『教員』という特権を用いることだ。
 学校は、膨大な生徒を管理する為に監視課に協力してもらっている。

 ボクは一度、女神学校で短期講師を務めたことがある。
 その時の権利が残っていれば、エリカに関する情報を開示してもらえるかもしれない。

 案内に従い、『監視課』と書かれた表示を見つけて立ち止まる。
 白い廊下には似合わない黒い壁がそこにあった。
 辺りを見渡すが、扉のようなものは見つからない。

 怪しいのはこの黒い壁だ。
 試しに、押したり引いたり叩いたりしてみる。
 ……なにも反応がない。

 たぶん研究課と同じような自動ドアではないのだろうか。
 ということは、すでに入口から入れる者の選別が始まっている?
 ボクの権利はもう失われているということか。
 それならば、リッカと仲が良さそうだったアイメルト先生に頼みに行くべきだろうか……。
 あの人がどれくらい力になってくれるだろうか。

 諦めて踵を返しかけたとき、後ろから声が掛かった。


「ハーイ!
 テンシじゃん!なしたノ」


 久々に上から降り注がない声を聴いた。


「……久しぶりなのです、カナエ」

 金のショートヘアーをした小さな女神が一人。
 カナエは、ボクと同じように天使と見間違えられることに苦しんでいる哀れな女神の一人だ。


「……監視課に用があったのですが、扉が開かないのです」

「あーなるほどネ。まかせて!」


 最近会っていなかったが、教師にでもなっているのだろうか。
 カナエは黒い壁の前に立つ。
 壁はうんともすんともいわない。


「ここら辺だったかナ?」


 急にカナエがジャンプし始めた。
「あれこっちかナ?」と言いながら、何度か場所を変えながらジャンプすると
 壁が音を発てずに左右に開いた。


「いやここサ?
 せんさーの位置が悪いらしくてネ。
 ミー達だとアレなんだよアレ」


 選別がどうとか考えていたのが恥ずかしい。
 ただ単に、身長が低くて反応してなかっただけだった。


「ホラ!
 早く通らないと閉まっちゃうヨ!」


 カナエに急かされて、急いで壁を通り抜ける。
 寸前のところで壁が閉じた。
 なんとも危ない扉だ。


「……カナエは随分と慣れているのですね」

「アレ言ってなかったケ?
 ミーは監視課で働いてるんだヨ」


 知らなかった。
 これは良い助っ人を得たかもしれない。


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