異世界転生を司る女神の退屈な日常

禿胡瓜

第52話 「靴一足でたくさんお泊りができます」

 
 グレンと共に、商店通りを歩く。
 ちらっと覗いてみると、売っている物は店それぞれによって大きく違う。


「買い取ってくれるところはあるんですか?」

「普通の店はこちらからの申し出で買い取ってくれない。
 彼らは盗品や贋作を買ってしまうのを恐れるからね。
 専門店で取引するより多少価格は下がるが、質屋で買い取ってもらうのが一般的だ」


 そう言いながらグレンが入っていった店は、明らかただの靴屋さんだ。


「ここ、質屋さんっぽくないですけど……?」

「『信頼』さえあれば話は別なんだ」


 なるほど。きっと馴染みに店主なのだろう。
 グレンは見るからに人が良さそうだから、交友関係も広いんだろうなぁ。

 カウンターには口ひげを生やし、エプロン姿のおじさんが一人。
 グレンはにっこり笑いながらおじさんに話しかけた。


「靴を買い取ってほしい」

「質屋は店を出てずっと右のほうだ」


 ダメじゃないですか。
 信頼関係皆無じゃないですか。


「まぁ、とりあえず靴を見てほしい」


 グレンはそういって靴を取り出し、カウンターの上に置いた。
 紫色の靴を見て、明らかに店主の顔が変わる。


「これは……紫紺の靴か。
 しかも翡翠の宝石まで……」

「どうだ?
 まだ誰も履いていない靴だ」


 おじさんは靴を手に取り、様々な方向から眺め、撫で、もう一度カウンターの上に置いた。


「最高の靴であることは間違いない。
 だからこそ、なおさらここでは買い取れない。
 見たところただの冒険者じゃないか。
 なぜこの靴を持っている」


 紫の靴は、よほど高価な物なのだろう。
 普通の冒険者が持っていることはおかしい。
 つまり、これが盗品ではないのかと疑われている。

 盗品でないことは間違いない。
 さっき創られてばかりだからだ。
 だが、それを証明する方法がない。
 目の前で実際に創るわけにもいかないし……。

 諦めようとグレンに提案しようとすると
 グレンは服の下からペンダントを取り出し、おじさんに見せた。


「僕はトレント家の者だ。
 必要になったときに売るようにと、この靴を持っていた」

「トレント家か。
 ふむ、まあいいだろう」


 そこからグレンとおじさんの激しい商談が続いた。
 聞きなれない単語が飛び交う店内をじっくり歩き回り、様々な靴を見てみる。
 わぁこのデザイン綺麗あとで真似してみよう。

 しばらくしてグレンが誇らしげに手にしてきたのは、紫色の金属が3枚。
 満面の笑みなので、満足いく値段で売ることができたのだろう。


「どれくらいの価値で売れたんですか?」

紫貨しか1枚で金貨100枚分だよ」

「わかんないです」

「えーっと、金貨1枚で銀貨100枚分で……、今日の宿が銀貨3枚で泊まれるよ」


 つまり、金貨1枚で宿に30回は泊まれるわけで……紫貨1枚だと300回泊まれる?
 まぁ靴を一足創るだけで、当分苦労せずに生活できるわけだ。


「紫貨は君に渡しておくよ。
 今までの分は気にしなくていいから、これからお金が必要になったら一緒に出そう」


 グレンから紫貨を手渡される。
 簡単なポーチを創り、中に入れる。
 初めて手にしたお金は、途方もなく大きな金額だった。

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