異世界転生を司る女神の退屈な日常

禿胡瓜

第51話 「お金持ちの色」

 宿屋のベッドに腰を掛け、窓から外を見る。
 眼前に広がるのは大海原。
 ずっと奥にポツンと何かが見える。
 たぶん、あれがライン街のあるカリーカ島なのだろう。


「リッカ、入るよ」


 扉が開き、鎧を脱いだ軽装のグレンが入ってくる。


「えっと、服を創って売れば良いんですよね?」

「別に服じゃなくてもいいんだ。
 アクセサリーだとか、靴だとか……何でも良い」

「そんなに簡単に売れるんですか?」

「一つ工夫をすれば良いんだ。
 道を歩く人を観察してごらん」


 グレンにそういわれ、窓から道行く人を観察する。
 老若男女、たくさんの人間が歩いている。
 鎧を着こんだ冒険者風の人もいれば
 一目で『お金持ち』だとわかる格好の人もいる。
 だが、それらの光景をみて何を工夫すれば良いかわからない。


「一つ、ヒントを出そう。
 『色』に注目してみてくれ」


『色』?
 服の色を見ればいいのだろうか?
 茶色い服、緑の帽子、赤い鎧、黒い靴……。
 これといって気になることはない。


「リッカ、あの船を見てごらん。
 ライン街へ向かう貴族専用の客船さ。
 あの船に乗っている人たちと、道を歩く人たち。
 比べてみて気になる『色』はないかい?」


 じっと客船を観察する。
 都合の良いことに、たくさんの貴族が甲板に居た。
 白いドレス、黒いスーツ、紫色の靴、紫色の腕輪、紫色のベール……。
 急に貴族たちがどこかに注目して歓声を上げている。
 よく見てみると、どうやら紫色のドレスを着た人に注目しているらしい。
 なんとなくわかって来た。
 さっき道を歩いていた『お金持ち』っぽい人を見つけてもう一度観察してみる。

 ……見つけた。紫色の首輪をぶら下げている。


「紫色の物を身に着けている人はお金持ちですね!」

「うーん、まぁ当たってるちゃ当たってるけど……」


 グレンが苦笑しながら椅子に腰を掛ける。


「紫色に染める染料がとても貴重なんだ。
 ドレスを一着、紫色に染めるだけで城が買えるほど金がかかると言われている」


 なんと。
 さっきみた人は相当なお金持ちらしい。
 私だったらドレスよりもお城を買う。


「つまりだリッカ。
 君が紫色の何かを『創って』売ればいいんじゃないか?」


 お安い御用だ。
 さっき見た紫色のドレスを、なんならアイメルト先生が着ていたような装飾がたくさんついたドレスを……。
『想像』して魔力を込める。
 それだけで、手のひらの上に一着のドレスが生成された。


「これでばっちりですよね?
 さっさと売って買い物に行きましょう!
 ……グレンさん?」


 グレンの顔が引きつっている。
 はじめてみる顔だ興味深い。


「まさかこんなにも簡単に創るとはなぁ……。
 リッカ、城を買いに行くわけじゃないんだ。
 もっと小さなものが良い。靴だとか……指輪だとか」

「えはー、それもそうですね」


 それなら青い靴を創ってみよう。
『想像』して生成する。
『高価な物』という印象が付いているせいか、小さな青い宝石も付いてしまった。


「あぁ、良いね。
 これだけ小さい靴なら塗料の面積も少ないし、履く人が限定されるから価格が抑えられる
 これを売りに行こう」


 靴をグレンのリュックに入れ、部屋を出ようとする。


「待って待ってリッカ!
 ドレスを何とかしてほしい!」


 グレンが慌てた様子でドレスを指さす。


「部屋に置いといちゃダメですか?」

「この街は治安が良いとも言えないし、誰がどう見つけてしまうかわからない。
 これだけ高価な物だと、戦争の火種になる可能性もある。
 何とか目につかないようにしてほしい」


 なんともまぁ、あれだけサクッと創れてしまう物が戦争の原因になんてなってしまったらどんな顔をして生きていけばよいかわからない。
 後で燃やそう。燃やしてしまおう。
 そう考えて魔法庫にしまった。

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