異世界転生を司る女神の退屈な日常

禿胡瓜

第47話 「誰も寝てはならぬ というわけではない」

 
 ぱちぱちと燃える焚火の明かりを頼りに魔導書を読む。
 そもそも、この魔導書を読み始めた理由は
 エリカが言っていた「もしもの時に役立つ」という言葉に感化されたからだ。
 異世界に来ているこの状況が、まさに『もしも』の時だ。

 天界での生活で考えていた『もしも』の時なんてかわいいものだった。
 だから結局覚えた魔法は『幸運を呼び寄せる魔法』というよくわからない魔法だった。
 改めて魔導書を見てみると、『千里先を見通す魔法』だとか『水中で呼吸ができるようになる魔法』など、役に立ちそうなものがたくさんあった。


「…………」


 グレンは焚火のほうをじっと見つめて座っている。
 夕飯を食べ終えてからかなり時間が経つが、眠らないのだろうか?
 そんなことを考えていると、グレンと目が合う。


「夜は厄介な魔物が多いからね。
 しっかりと警戒してないといけないんだ」


 グレンは剣を軽く持ち上げて小さく笑った。


「火を恐れて近づいてこないとか、ないんですか?」

「獣の類ならそうさ。
 でも、魔物は火を扱うヤツも多い。
 逆に目印にして襲ってくるヤツらもいる」


 月明りに薄く照らされた草原を見渡す。
 ずっと遠くのほうで木が一本生えているのを見つけ、耳を澄ます……。

 木が風で揺れ、カサカサという音が私の耳に届いた。


「グレンさん。
 私ってすっごく目と耳が良いんですよ」

「……森に居る時に実感したよ」

「遠くに生えてる木、わかりますか?」


 グレンが私の指した方向をじっと見つめる。


「……わからない」

「じゃあ私は、グレンさんが見えない木も見えるし、そこまでの音が聞き取れるんですよ」

「本当かい? 凄いな」

「えへへすごいんです!
 だから、私が辺りを警戒しますからグレンさんは寝てください!」

「でも、君も寝ないといけないだろう?」

「私は寝なくても平気なんです!
 明日も頑張ってもらうんですから、早く寝て寝て!」


 グレンはしぶしぶリュックを枕にして横になり始める。


「無理しちゃダメだよ。
 眠くなったら教えてくれ」

「分かりました~」

「後、何か怪しい物音がしたらすぐに起こしてくれ」

「へーきへーきです!」


 グレンは目をつぶると、すぐに寝息を立て始めた。
 やっぱり疲れていたんだ。
 いつもは寝ずに夜を過ごすのだろうか?
 身体に悪い。

 天界では、空間の魔力の増減に合わせて睡眠をとっていたが
 この世界は夜のほうが魔力の高まりを感じる。
 寝ずに魔力の吸収を意識していたほうが、身体の疲れを取ることが出来る。

 そう考えると、天界での睡眠が馬鹿らしく感じた。
 たぶん、意図的に空間の魔力量をコントロールしていたと思う。
 様々な理由があるのかもしれないが、まるで人間のような生活をさせられていた。

 消えそうな焚火に木の枝をいくつか放り込む。
 少し強くなった火を頼りに魔導書を読んでいると、すぐに使えそうな魔法を見つけた。
『生き物の侵入を防ぐ結界を作る魔法』だ。
 なんとも分かり易く、状況に合った魔法だろうか。
 魔法陣は少々複雑だが、すぐに覚えられないというほどではない。
 魔導書を見ながら、指で地面に魔法陣を何度も書いて暗記する。

 よし、覚えた。


「……グレンさん?」

「…………」


 寝てる寝てる。

 翼を出して空に舞う。
 焚火を中心にして、広く、魔法陣を地面に投影した。
 魔法陣は薄く赤い光を放ちながら地面に刻まれる。
 地に降り、魔法陣から外に出ようとすると『空気の圧』のようなモノに阻まれて先に進めない。

 これは完璧だ。
 たぶん、外から内に入ることも叶わないだろう。
 これで魔物を警戒する必要はなくなった。
 明日の朝グレンに伝えたら泣いて喜ぶだろう。
 その場面を想像してニヤニヤする。

 魔法庫から枕を取り出して寝っ転がり、星空を眺める。
 寝る必要はなくても、実は寝たい。
 気分の問題だが、外で寝る事にも憧れていた。
 横になると、どうしても眠くなってきた。
 結界もあるんだから、平気平気。

 そう自分に言い聞かせて目を閉じる。
 瞼の裏側にも満点の星空が広がっていた。

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