異世界転生を司る女神の退屈な日常

禿胡瓜

第42話 「バルロックの森へ」

 ナーゲル村はヘーゲル草原の中央に位置し、東西南北四カ所の出入り口がある。
 私達来た入口は西口。
 ライン街に向かうには南口から出る必要があった。

 朝食を終えた私たちは、身支度を済ませて南口に向かっていた。
 出口に差し迫った時、小さな門を支える柱に誰か隠れているのに気が付いた。
 というか、身体がはみ出して隠れ切れていない。
 その主が、ひょっこりと顔を出す。


「ベンガルか……?」

「よう」


 鎧に身を包んだベンガルは、さらに大きく見えた。
 背負った大きな盾と剣がその印象を強める。


「ちょっとそこの嬢ちゃんが心配でな
 ちょっとした贈り物をしようと思ってたんだ」


 ベンゲルは腰のポーチから透明な石で作られた首飾りを渡してきた。


「これは……?」

「天空人除けの首飾りだ」

「ベンガル……!」


 グレンが怖い顔をして睨むと、ベンガルが少し慌てる。


「冗談だ冗談!
 そんな怖い顔するなって!」


 ベンガルはポーチから同じ首飾りを取り出す


「これは『叫びの石』で作られた首飾りだ。
 グレンは誰かと旅をするのが不慣れだから、はぐれたりすることがあるかもしれない。
 この石を砕くと、石が大きく『叫ぶ』んだ。
 見てろよ……」


 ベンゲルは叫びの石を地面に置き、石を足で踏みつぶした。
 その瞬間、男とも女ともいえる鋭い悲鳴がベンガルの足の隙間から流れ出る。
 その悲鳴は次第に大きくなり、視界を震わせ、音に身体を押されているように感じるほど大きくなった。
 ある時、プツンと空気の振動が止むが、耳から悲鳴が離れない。


「こんなもんだ」


 ベンガルの言葉がやけに小さく聞こえる。


「さあ!衛兵たちが来るぞ!早く行け!」


 グレンと共に入口から押し出される。


「ベンガル!かたじけない!
 行こうリッカ!」


 グレンに手を引っ張られ、草原に駆け出す。
 音を取り戻してきた聴覚には、村のほうが騒がしくなっていることを捉える。
 あれだけの大きな音を出せば、騒ぎになるだろう。


「ベンガルさん!
 ありがとうございました!」


 届いたかわからない私の叫びは、青空に吸い込まれていった。


 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


 ヘーゲル草原は広い。
 村を出発してから、しばらくの間ずっと草原を歩き続けていた。
 陽が高く上がった頃、やっと違う景色が見えてきた。
 高い木が点々と生えている。


「これから先、『バルロックの森』に入る。
 その前に休憩して食事を済ませてしまおう」


 森の入り口までたどり着き、グレンはリュックを下ろして中から大きな布を取り出す。
 丁度よいサイズの枝に両端を結び、簡単な日よけの完成だ。


 グレンがリュックの中から茶色い包み紙を2つ取り出す。
 包み紙を広げると、一つはパンが入っていた。
 もう一つの包み紙には干し肉の塊が入っていた。

 ナイフを取り出し、干し肉を薄く切り分ける。


「リッカ、そこの木の実を少し取ってもらっていいかな」


 グレンに言われ、木に生えていた緑色の木の実を少し取る。
 グレンはそれをナイフの腹でつぶし、パンに塗った。


「はい、どうぞ」


 朝に比べれば非常に質素な食事だ。
 茶色のパンに少し黒い干し肉。
 それにペーストされた緑色の木の実。
 見た目はお世辞にも美味しそうとは言えない。
 香りも木の実のせいだろうか。ほのかに酸っぱい香りがする。

 だが、なぜか口の中が唾であふれる。
『空腹』を感じることはないが、歩き続けた後の食事は絶対に美味しい。

 口を開き、肉と木の実が一緒に口に入るように齧りつく。
 パンも肉も少し硬い。
 それらを一所懸命に咀嚼する度に、パンの香ばしさが、肉の塩味が口の中に広がる。
 そして最後に木の実の酸味がすっきりと口の中に広がった。
 胃の中までさわやかだ。


「美味しいです!」

「こんなで喜んでくれるなんて嬉しいよ」



 本日二度目の食事を最後の一口まで堪能した。
 外での食事は、周りの素材を存分に活かすことが出来ることだ。
 今回食べた木の実は、ナチの木に生える木の実らしい。
 ナチの木は、これ以上南へ向かうと生えていないらしいので
 これからの食事の為に木の実をたくさんかき集め、魔法庫にしまった。

 荷物を整え、出発の準備をする。
 今度は森の中へ出発だ。

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