異世界転生を司る女神の退屈な日常

禿胡瓜

第27話 「不幸運」

 
「私が発動させた魔法のせいで……世界が不幸になった?」

「まぁ、簡単にいえばそういうこと。ただ、普通なら気づくことはないわ。
 だって、周りもみんな不幸になっているのだからほとんど変化がないのよ」


 周りが不幸になることで、相対的に私の『運』が上がったように思えるだけなのだ。


「で、でも先生、あんな簡単に世界を不幸にすることなんてできないと思います」


「リッカ、あくまでもこの魔導書は『人間用』よ。
 そして、あなたが持ってきたこの魔導書に載っているのはすべて大規模魔法陣よ。
 人間が何十人も集まって何年もかけて発動させるのを想定した魔法なのよ」


 私は仕事終わりにホイホイと発動してしまったが、普通なら世界を不幸にするのに見合った労力が必要な魔法なのだ。


「私はどうすれば良いんですか?」


 先生はカップに残った紅茶を一気に飲み干すと、ソファーに深く沈んだ。
 私も先生の真似をして紅茶を飲み干してみる。


「そうねぇ……。私達のほうでこの魔法……魔導書の作者について調べてみるわ。
 それまであなたは仕事をお休みなさい。転生課の仕事はこの魔法の効果が大きすぎるわ
 可能性は低いけど、魔法効果が勝手に切れることもあり得るわ」

「お仕事……休まなきゃダメですか?」

「特定の転生者を独占した罪で堕天させられたいのなら休まなくていいわ」

「休みます」

「それが賢明ね。あぁ、でも仕事がしたくてたまらないのなら、転生課以外なら許可するわ」

「……? どうして転生課以外なら良いんですか?」

「他の課はほとんど『実力主義』だからよ」


 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※v


 私は、仕事を終えたエリカと合流して食堂に来ていた。


「あぁ? 仕事ができないだって?」

「うん。魔法が解析されるまで転生課の仕事はダメだってさ」


 エリカに今日の出来事を話し、アイメルト先生と会ったことや魔法の本当の効果についても話した。 


「なるほどな。リッカが幸運になったわけじゃなくて、私達が不幸になってただけなのか。
 くっそ迷惑だなその魔法!」

「ご、ごめんなさい」


 エリカに縮こまって謝る。
 本当なら、天界の住人すべてな謝らなければならないがとても無理だ。
 魔法の効果がいち早く切れることを願う。

 食堂のスライドドアが開くと、一人の天使……いや女神だ。
 テンシが入ってきた。
 私達と目が合うと、ゲッ!とした顔をして食堂から出ていこうとする。


「いや、なんだよその顔。こっち来いよ」

「……いやなのです」


 飛んで逃げたテンシをエリカが瞬時に追った。
 少しすると、テンシを抱えたエリカが帰ってきた。


「女神に敵うと思うなよ!」

「……ボクだって女神なのです!ムキー!」


 エリカはテンシを無理やり座らせながら、本日のメニュー『星空の水』を追加で注文する。
 テンシは観念したのか、大人しく座っている。


「テーちゃんもご飯食べに来たの?」

「……別にただ食べに来たわけじゃないのです。異世界の食文化を勉強することで、円滑に奇跡課の仕事をすることが出来ると思って来たのです」

「素直じゃねぇちびっこだなぁ」


 テンシがジトッとエリカを睨み、私が慌ててなだめる。
 この前のトカゲのようになると大騒ぎだ。


「……そういえばリッカ。今日、奇跡課で別の世界を覗いている時に変わった赤ん坊を見かけたのですが、誰かにユニークスキルを与えたのですか?」

「与えたけど……。そんな目立つようなスキルは与えなかったと思うけどなぁ」

「……すべての物をなぎ倒しながら高速でハイハイする赤ん坊だったのですが」


 しまった。『獣の如き戦車』を与えたワンちゃんだ。
 『手足で走ると誰よりも早く頑丈に走れる』という上手く編み出したスキルだと思ったが、赤ちゃんの時のことを考慮していなかった。


「……『しまった』という顔をしているのです。まぁ、そんなミスを『奇跡』ということにしてバランスを保つのが奇跡課の役目なので、気にしなくてよいです」

「そいつはどう『奇跡」を起こして処理したんだ?」

「天から光を射して生後二日で二足歩行できるようにしてやったのです」

「それは……奇跡だねぇ」



 研究課の女神がやって来てテーブル上に『星空の水』が入ったコップを三つ置く。
 透明の水にキラキラと光るものが無数に浮いている。
 飲んでみる前に、ついつい見とれてしまう。
 ふわふわと漂うキラキラは、『星空』を見ているというより『宇宙』を見ている感じだ。


「……今日はヤバイって感じはないのです」


 テンシはクイッと傾けて飲んでみると、片眉をあげて首を傾げる。
 私達も『星空の水』を飲んでみた。

 匂いはしない。液体に粘度は無く、味もしない。
 カリッとしたものが歯に当たるので噛んでみると、シャリシャリと音を立てて崩れる。
 ただの砂が入った水だこれ。


「どうだ?勉強になるだろう」


 エリカが皮肉を言うとテンシがまたジトッ睨む。
 なだめる私の身にもなってほしいよエリカちゃん。


「そういえばテーちゃん!私が送ったユニークスキル持ちの人ってどうなってるのかな?」

「ん……。奇跡課に出向いてくれれば調べることが出来るのです」

「へぇ調べる事ってできるんだ。奇跡課っていろんな世界を覗けるから憧れなんだよね」


 エリカがシャリシャリと子気味の良い音を立てながら言った。


「アイメルト先生のお墨付きなら、奇跡課で働けるんじゃね?」

「それだ!私、奇跡課で働いてみる!」


 エリカとノリでハイタッチをしているリッカのことを
 状況を理解できないテンシがポカーンと眺めていた。


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