異世界転生を司る女神の退屈な日常

禿胡瓜

第26話 「デバフ」

 
 女神育成学校
 天使学校を卒業した後、女神になることを希望する者のみが入学する。
 私たちはここで、女神になるために必要な知識をたくさん学んだ。

 以前ここを訪れたときは、アイメルト先生に呼び出しをされ、絶対に怒られると思っていたから気が気じゃなかった。
 落ち着いているときにここの景色を見ると、学生だった時とはまた違った様に見える。
 一つ一つの場所に思い出があり、懐かしい記憶がよみがえる。
 学生の頃は退屈に感じていたけれど、今となってはその頃に戻りたくてたまらない。

 私がここに来た理由は、アイメルト先生なら私が発動してしまった『幸運を呼び寄せる魔法』を止められるのではないかと思ったからだ。
 アイメルト先生は厳しくて怖い先生で、私とエリカちゃんは何度も怒られた。
 でもその度に、アイメルト先生は、私たちのことを助けてくれたのだ。


『校長室』と書かれた扉を軽くノックすると、「どうぞ」とアイメルト先生の声がする。
 扉を開けると、正面には天界を見渡せる大きな窓。
 そこに背を向けて座っているアイメルト先生がいた。


「あなたからここに来ることは珍しいわね、リッカ」


 先生が椅子から立ち上がり、近くにある来客用のソファーに座る。
 これは『ソファーに座りなさい』という意味なのだ。
 先生は説教の時以外は、私たちと同じ目線で話を聞いてくれる。
 先生の心遣いに甘え、「失礼します」と一声かけてからソファーに向かい合って座った。
 机の上にはいつの間にか湯気を上げる紅茶の入ったカップが二つ。


「表彰式、見に行きました。教え子達があの場に立つことは、何回見てもうれしい事です。」


 先生がカップを口に運ぶ。
 私もカップを持つと、良い香りが漂う。アールグレイの香りだ。
 紅茶を飲むと、程よい甘みが舌を包み、喉を潤す。


「ほとんど利用する人のいなかった図書館について先生も悩んでいましたが、あなたのおかげで解決することが出来ましたね」


 先生がカップを置いて、眼鏡をかけ直す。


「それで、今日は何をやらかしたんですか?」


『何かをやらかしたから来た』と思われているのが少し悔しいけど、事実だ。
 これくらいの心構えでいてくれたほうが話しやすい。


「今日来たのは、図書館に新しく取り寄せられた、人間の魔導書についてなのですが……」


 私は、要点をまとめて今回の出来事を話した。

 魔法陣を利用して『幸運を呼び寄せる魔法』を発動させたこと。
 この魔法によって、仕事の時に500ポイント持ちが一気に五人も来た事。
 そして、この魔法の効果が切れずに今に至ることだ。


「……なるほど。」


 先生は渡した魔導書をじっくりと目を通す。


「現状を放置せずに相談に来たのは正解でしたね。場合によっては、監視課によって堕天されていたでしょう」


 堕天————欲に溺れた天界の者が追放されることだ。
 監視課は未然に堕天を防ぐと同時に、堕天させるのも仕事だ。


「結論から言うと、先生にこの魔法を解くことはできないです」

「そんな……。どうしてですか?」

「それはこの魔法を説明しなければならないわ」


 先生は『幸運を呼び寄せる魔法』の魔法陣を宙に描くと右手で握りつぶした。
 先生が持つ『隠し事が通用しない』という能力は、人だけではなく物の解析などにも使えるようだ。


「リッカ、誰かを笑顔にするのと悲しませるの、どっちが簡単かしら?」


「私は……悲しませることだと思います」


 簡単に悲しませる方法はいくらでも思い付く。
 例えば、その人が大切にしている物を壊せばいいだろう。
 反対に、笑顔にするのなら壊した物を元通りにすれば良い。
 だがそれは、悲しませることより労力がかかる。


「そうね、悲しませることの方が簡単だわ。
  それは、魔法も一緒なの」


   先生は、飲み終えたカップに紅茶を注いだ。


「つまりね、リッカ。この魔法は『幸運を呼び寄せる魔法』ではなく『不幸になる魔法』よ。
 あなたが幸運になったわけではなく、世界が不幸になったの」




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