異世界転生を司る女神の退屈な日常

禿胡瓜

★第20話 「書くなる上は仕方がない」

 
「ん…。とりあえずどんなもんかやってみるのです。」

「は~い!」


 リッカは指先に魔力を込め、魔法陣を描こうとする。
 しかし、思い描いた通りにはいかず、魔力はすぐに分散して消えてしまう。


「どう!こんな感じ!」

「…想像してたより酷い有様なのです。」

「テーちゃんやってみて!」


 テンシはリッカと同じように指先に魔力を込め、魔法陣を描く。


「ん…。ちょちょいのちょいなのです。」


 完成した魔法陣が一際輝くと、そこに氷の粒が生まれる。


「おーすごいすごい。でも全然わかんないや。」

「…まずは魔法陣を描く前に、魔力を宙に留まらせる練習をするのです。」


 テンシは指を宙に走らせると、ヘビやウサギなどの動物を簡単に描いていく。


「…リッカ、鉛筆などと違ってなぞっただけでは魔力は留まらないのです。
 描いた線をずっと意識してなければいけないのです。」


 テンシのアドバイスに従い、リッカは魔力で絵を描いてみる。
 すぐに分散してしまう事はなくなったが、意識が付いて行かずに描いた先から消えてしまう。
 何度か繰り返して、やっとウサギの絵を描けた。


「テーちゃん出来た出来た見て見て!」

「ん…。もう消えてるのです」

「もー!ちょっとでも意識を外すとダメだね」

「…まぁ、絵が描けただけ上達してるのです
 次のステップにいくのです」


 テンシはそういうと、次は指を使わずに宙にウサギの絵を描いた。


「なんと!」

「…『指を使って描く』というのは、未熟な魔法使いがやる事なのです。
 ボク達が火や水をイメージだけで起こすのと同じ方法なのです。
 リッカにはこの方がやりやすいと思うのです」


 リッカは宙に想像してウサギを描いてみる。
 少しずつかたどられ、指で描いたよりもずっと精工な物が出来上がった。


「あれ? こっちのほうがずっと簡単だね」

「…あくまでもこの魔導書は人間用なのです。
 女神には女神なりのやり方があるのです」

「なるほどなるほど。
 それじゃぁもう魔法陣は完璧だね!」


 リッカは魔導書とにらめっこしながら魔法陣を描いた。


「できた! えーっと、これは雷撃を放つ魔法陣!」

「ん…。まだ発動するのは待つのです」


 テンシがジッと魔法陣を観察して、複数の個所を指さす。


「…ここと、ここ。ここも魔法陣が間違っているのです。
 発動したらリッカの何かが吹き飛ぶと思うです」

「えぇ…怖い。ここと、ここ…。」

「ん…。今度こっちの文字が崩れたのです。
 円も歪んできてるのです」

「わ、わわ。
 円を整えて、文字も直して…。」


 リッカは慌てて修正をするが、その度にどこかが狂ってしまう。
 結局、集中が切れてしまい魔法を発動することはできなかった。


「ん…。それがイメージして魔法陣を描く場合の欠点なのです。
 魔法陣を暗記して行わないと、発動にもっていくことは難しいのです」

「うぅ…。暗記も苦手だよぅ。」

「…とにかく、何とかして暗記しないと魔法は使えないのです。
 時間かければどうとでもなるので頑張るのです。」

「はぁ~い…」

「ん…。それじゃあボクは家に帰って本でも読むのです。」

「付き合ってくれてありがとうね。テーちゃん!」


 リッカが手を振ると、テンシは小さく手を振り返して空に飛んで行った。


 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「ただいま~」

 リッカはエリカが座っている席に戻り、向かいに腰を下ろした。

「おぉ、どうだった?テンシに会えたか?」

「会えたよ~。魔法陣の書き方も教わってきた!」


 リッカは魔力を込め、宙に描いた。


「……アタシにはウサギに見えるんだが」

「上手いでしょ。」

「確かにさっきよりは上手くなってるが……。
 魔法の発動は?」

「それがねぇ、魔法陣を暗記しないといけないらしくてさ」


 リッカはぐでーっと机にのめり込んで嫌そうにつぶやく。
 昔から暗記は苦手なのだ。
 辛うじて転生時の対応マニュアルを覚えているレベルである。


「暗記か。それならお前も『アリス』みたいに覚えるべきだぜ」


 エリカはそう言うと、読んでいた漫画『魔法少女アリス』を見せる。
 見習い魔法使いのアリスが魔法陣を覚える為に、何枚も紙に魔法陣を描いているシーンだ。
 アリスは丸一日中、紙に魔法陣を描き続けてやっと覚えることができている。

 エリカは紙とペンを魔法で生成し、リッカに手渡した。


「ペンを握るのなんて…女神育成学校以来だ。」




 リッカはひたすら魔法陣を描き続けた。
 エリカが何回も本を取りに立ち上がり、帰ってくる。
 お尻の痺れも、手首の痛みも忘れた頃だった。


「しまった」

「どうした?」


 エリカが22冊目の漫画を読み終え、リッカの描いた魔法陣をのぞき込む。


「上手く描けてるじゃないか。
 何が問題なんだ?」

「ミスもなく、ほとんど暗記で描けるようになったんだけど…」

「いいじゃないか」

「これ、何の魔法の魔法陣なのか確かめてなかった」

「やらかしたな」


 リッカは偶然開いていたページの魔法陣を必死に模写していた。
 そして、この魔法陣が発動する魔法は…。


「幸運を呼び寄せる魔法…?」

「発動しても上手く効果が出ているか分かり辛い魔法だな」

「せっかくだから、もっと分かりやすくてカッコいい魔法を覚えたかったなぁ。」

「まぁ、ここまで描いちまったんならしょうがないさ。」


 こうしてリッカは『幸運を呼び寄せる魔法』の魔法陣を暗記したのだった。


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