異世界転生を司る女神の退屈な日常

禿胡瓜

★第19話 「女神の天使」

 
「あーっ!天使みたいな女神さん!」

「ん…。それはこっちのセリフなのです。
 失礼に加えて五月蠅い天使みたいな女神なのです。」

「うぅ…。朝のは謝ったから許してください~。」

「謝って済むなら監視課はいらねーのです。」


 ぐちぐちと言われる度にリッカは縮こまっていく。
 傍から見ると、天使に女神が説教されている異様な光景である。


「…それで?リッカ、この女神みたいな天使のちびっこは誰だ?」

「エリカちゃん!逆だよ逆ゥー!これ以上怒らせないで!」

「ん…。類は友を呼ぶとはこのことなのです。」


 飽きれた顔でジトッとエリカを一瞥してからため息を吐く。


「…ボクの名前は”テンシ”。転生課と奇跡課を兼任する女神なのです。」

「やっぱり天使じゃねーか。」

「ん…。天使じゃなくてテンシなのです。
 やっぱり名乗るべきじゃなかったのです。」


 水色の小さな女神―――テンシは大きな本を両手で抱えなおすともう一度言った。


「…とにかく、図書館では静かにするのです。
 集中して読書もできねーのです。」

「ごめんね、テンシ…えー、テーちゃん。
 静かに読書します。」

「静かに読むぜ、テンシ様。」

「ん…。解れば良いのです。」


 テンシはそう言うと、重そうに本を持ちながら去っていった。



「…ほんとに天使じゃないのか?」

「そうみたいだよ?今日、転生課で仕事をしてるの見たよ~。」

「ふ~ん。それでテンシの言ってた転生課と奇跡課を兼任してるって…。」

「かなり有能な女神だよね。」


 稀にテンシのようにいくつかの課に属する女神が居る。
 もともとは一つの課に属していたが、その才能を認められ別の課から『スカウト』が来るときがある。
 その様な場合は、本人が望めば兼任できるのだ。


「それでリッカ、教えてもらわなくてよかったのか?」

「教えてもらうって魔法のこと?
 いくらなんでも突飛押しもなくそんなこと聞けないよ~。」

「や、でも…。アイツの持ってた本『魔導書』だったぜ。」

「ほんと!?気づかなかった!
 あーうー。あー…。さ、探して聞いてみる!」

「おうさ、アタシはここにいるぜ。」


 立ち上がって周りを見渡すが、テンシの姿は見えない。
 本を持っていたのなら、どこかに座って読んでいるのではないかと思い
 辺りの机を探してみるが、どこにも居ない。
 それなら、また本を探しているのだろうかと思い
 棚の間をすべて探してみることにした。

『童話コーナー』や『お伽話コーナー』を探してみたがどこにも見つからない。
 もう外に出てしまったのかと半ばあきらめかけていたところ
 たまたま通りかかった『ミステリー・推理小説コーナー』で見つけた。

 近づいてみると、上段の本を取ろうと懸命に背伸びしている。
 先ほどもっていた魔導書は、床に置かれ『足場』として使われていた。

 リッカはテンシの取ろうとしていた本を取ってあげた。


「これ…でいいのかな?はいっ。」

「ん…!リッカなのです。その隣の本も取ってほしいのです。」


 リッカは言われた通り、本を取ってテンシに渡した。
 テンシは魔導書からストンと飛び降り、「ふぅ」とため息を吐く。


「ん…。感謝なのです。」

「どういたしまして。
 これくらいの高さなら、わざわざ足場を作らなくても飛べば良かったのに…?」

「ん…。不当な高さの本を取るために、わざわざ飛ぶのが無性に気に食わなかったのです。」


 少し頑固っぽいところがあるんだな~と思い、ふと気づいた疑問を口にした。


「そういえば、名前を教えてなかったのに、どうして私の名前を?」

「…女神リッカ。今の図書館を生み出してくれたアナタは有名人なのです。」


 なるほど。
 確かに表彰式の時から反響は良かった。
 それにこれほどに図書館が改革されたのであれば、表彰式に居なかった神々の耳にも入るだろう。

 そう考えると、口元が少し緩んでしまう。


「えへえへへ。私…有名人なのか~。
 へぇへえ、それじゃあねテーちゃん。えへへ。」


 リッカはそう言って立ち去ろうとする。


「ん…。ボクに何か用事でもあると思ったのですが。」

「!?そうだったそうだった!
 いや~でも足場にするだけで勘違いぽかったしなぁ~。」

「ん…。足場とはこれのことなのですか?」


 テンシは魔導書を拾い上げ、パンパンとはたく。


「…なるほど。リッカは魔法を勉強していたのですね。」

「そうそう。それで、魔法陣が上手く描けなくて、魔導書を持ってたテーちゃんなら魔法陣も書けると思って、コツを聞こうと思ってたんだけどね。」


 テンシは魔導書をパラパラとめくって、中身を確認しながら宙に指先を走らせた。
 すると、そこに複雑な魔法陣が浮かぶ。

「…まぁ、使うつもりはなかったのですが、これくらいならボクが教えてやってもいいのです。」

「おぉーすごいすごいテーちゃん。
 私がどうやってもできなかったことを一瞬でやってしまった。」

「…伊達に兼任してないのです。」

「…でもいいの?急に教えてもらっちゃって?」

「ん…。リッカ、この図書館があるだけでも多大な恩を感じているのです。
 これくらいお安い御用なのです。」


 テンシはそう言うと、本を抱え歩き出した。


「…どんな魔法が飛び出てくるかわからないので外でやるのです。ついてくるのです。」

「は~い!」


 傍から見ると、天使に教えを乞う女神という異様な光景であった。


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