異世界転生を司る女神の退屈な日常

禿胡瓜

第2話 「人間だけができる愚かな行為」

 
「ウキーッ!キーキャッキャッ!」

「不幸なことにあなたは……」




「コンニチハ!コンニチハ!ピヨチャンゲンキ!」バサバサ

「あなたは望んだ生き物へ転生する権利が……」




「プ~ン………」

「あなたに選択を…………あれ?どこいっちゃいました?!」





「ふひぃ~疲れた~」

 転生を終える度に飲んでいた紅茶が飽きてきたころ
 本日30回目の転生を終えた女神リッカは召喚した机に突っ伏した。

「今日はどれくらい稼いだかな~?」

 リッカは机から体を起こし、片手を空に伸ばした。
 すると、手から小さな光の玉が次々と現れ、宙に留まる。

「ひぃ…ふぅ…みぃ…。130ポイントか…。」

 対象生物を転生する際、その生物が持っていた善良ポイントを女神は半分受け取ることができる。
 善良ポイントが女神たちの給料という完全歩合制の仕事なのだ。

「あともう一人くらい転生させちゃおう。」

 リッカが机を片付け、椅子に座りなおした。

「1115番。次の対象生物をお願いします。」



 淡い緑の光に包まれて召喚されたのは……

「グエッ!ウグッ!グゥゥッ!」

 もがき苦しむ人間だった。



 女神リッカは怪訝な表情をしながら人間の情報を読み取った。

 前にもこんな人が居たなと思いながら、一瞬で情報を整理していく。


 前田 幸太郎まえだ こうたろう  32歳 無職

 163cm 82kg 

 善良ポイント -23ポイント


(ゲッ…ハズレマイナスか…。)


「グゥッ!ゲッ!ゲホッ!ゴホッゴホ!」

 まだ苦しんでいる前田 幸太郎を尻目に
 善良ポイントの詳細を調べる。


「家の中の蜘蛛を外に逃がした」――― 1ポイント

「見返りを考えずに人助けをした」――― 2ポイント

「目の前で転んだ人を介抱せずに立ち去った」――― -2ポイント

「募金をした」――― 1ポイント


(ここまでは普通……。じゃあマイナスの理由は…あった。)



「自らの手で命を絶った」――― -100ポイント



「ゲホッ…。グッ……。……!? 俺は首を吊ったはずじゃ…!?」

「えぇ。そうです。あなたは死にました。」

 リッカはニコリと笑いながらそう言った。

「どうぞ、お座りください。」

 リッカは手で椅子を示し、前田 幸太郎に着席を促した。

「こっここは?……天国か…?!」

「えぇ。天国ではありますが、あなた方人間たちが想像する天国とは違います。」

「…どういうことだ。」

「〈楽園〉ではないということです。死んだ生物は皆、どこにもとどまることはなく、すぐに転生をしなければなりません」

「転生…生まれ変わるのか。」

「……ただし、あなたの場合はただ生まれ変わることはできません。」

「自殺…それは罪深き行いの一つ。」

「あなたはそれを償わなければなりません。」

「償う…?」


 自殺―――それは天によって定められる「死」自らの手で引き起こすもの。
 …つまり、自殺をする人が多ければ多いほど
 女神たちの仕事量が増えるのである。

「あなたに選択を迫らなければなりません。」

「善良ポイントが「0」になるまで、下等生物として生き続けるか…」

「地獄で働くか、です。」

「!?…地獄?!」

 天界と地獄は世界を廻す歯車のようなもの。
 互いに労働力を与え合うことも少なくはない。
 天界が送る労働力の一部は、このような「マイナス」である。

「そんなの決まってるだろ!地獄なんて御免だっ!」

「…案外地獄も悪くないのになぁ」

 そういうとリッカは立ち上がり、両手を広げた。

 前田 幸太郎の体が光に包まれ始める。

「では、前田 幸太郎様。あなたはしばらく下等生物として生き続けることになります。」

「くれぐれも、二度と自殺などは考えないようにお願いします。」

「……まぁ、自殺できるような四肢はないと思いますが。」

「!?オイッ!それってどうい

 人間の姿が消えると、暗闇の世界には静寂が訪れた。



「1115番。本日の業務を終了します。」

 リッカはそう言うと、現れた扉に手をかけた。

「…あ~聞こえる~?エリカちゃん?終わったよ~!ご飯食べに行こ~!」

 扉の向こうの白い光の中へ、女神は消えていった。





…………

…………………

 どういうことだよ!!??

 俺は、そう叫んだつもりだった。

 女神を自称する白い女が転生がどうたらという話を聞いていたら
 突然体が光に包まれ、目の前が真っ白になった。

 俺は転生したのか?生まれ変わったのか?
 俺はいったい何に生まれ変わったんだ?

 あぁ…何も見えない。

 何も聞こえない。

 何も感じない。


 自殺なんてするんじゃなかった。

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