異世界転生を司る女神の退屈な日常

禿胡瓜

★第3話  「仕事終わりのひと時」

 
「よっ!」

 肩を叩かれ振り向くと、そこには赤いショートヘアーを揺らしながら、はにかむ女神―――エリカがいた。
 彼女とは天使学校からの友人である。

「えへへ~。お仕事お疲れ様~エリカちゃん。」

「おう!お疲れお疲れ!さぁ行こうぜ!」
<a href="//22612.mitemin.net/i263054/" target="_blank"><img src="//22612.mitemin.net/userpageimage/viewimagebig/icode/i263054/" alt="挿絵(By みてみん)" border="0"></a>

 リッカたちは、中央局の中にある施設の一つ「異世界研究課」を訪れていた。

「異世界研究課」は、異世界の武器、技術、文化、種族などを調査、研究する施設だ。

 見学することもできるし、女神たちの教育の為に用いられることもある。

 そんな施設に彼女たちが訪れた理由は……。


「さて!今日の新メニューはなんだ!?」

 食事である。

 硏究課では食文化の研究もしている。
 無数に異世界が存在する為、料理の数は無限にある。
 その為、研究員だけで食文化を研究するには人数が足りず
 女神たちに無料で提供されている。


「シラタマの木の実のアイスクリームと…」

「ネドラ…レイクドラゴンの尻尾焼き?ドラゴンか!」

「今日はイメージしやすいメニューだね。
 すみませーん!二つずつお願いしまーす!」

 大半の女神たちが仕事を終える時間帯だが
 研究課の食堂にはリッカ達の姿しかない。
 本来、女神たちは食事をとる必要がない。
 リッカ達は、研究に貢献するつもりは微塵もなく
 ただ「娯楽」として食事をとる。

「リッカ、今日はどれくらい裁いたんだ?」

「裁いたってそんな言い方…。今日は30くらいかな?」

「30!?普通の女神はどんなにやっても10だぜ。やっぱ一度地獄に堕ちた奴は魔力が尋常じゃないな!」

「その話はやめてよぅ~エリカちゃんだって魔族の血を引いてるでしょ!」

「純魔族のばあちゃんだって、30も裁いたら魔力も精神も擦り切れちゃうぜ。」

 エリカは魔族の象徴である赤い髪を揺らしながら、ケタケタと笑った。


 しばらくすると、天使たちが料理を運んできた。
 白い円卓に並んだのは……。

「まずはドラゴンの尻尾だね…。」

 平皿に乗った輪切りにされた尻尾が一つ乗っている。
 リッカの広げた手の平くらいの大きさで、緑の皮に緑の血が滴っている。
 エリカが用意されたナイフで尻尾を突っつくと、何か粘液のようなものが糸を引いた。

「…これ食べられるのか?」

「この前にみたいに、一日中口の中に味が残るのはやめてほしいよね。」

 リッカは苦笑いしながら、尻尾を一口サイズに切り分けた。

「…いただきます。」

 恐る恐る口に入れると…。



「……おいしい。」

 歯ごたえはぷりぷりとしているが、噛みしめると肉汁があふれジューシー。
 スパイスの効いた味付けに加え、柑橘類も加えているらしくしつこくない。

「結構おいしいよエリカちゃん!」

「ホントか?じゃああたしも…。」

 エリカは切り分けずにフォークを刺してかぶりついた。

「…ウン!…ウンウン!美味い!」

 豪快に食べるエリカを見て苦笑しながら、リッカは一口一口食べていった。


「いや~今日は『あたり』だな。口の中がネバネバするけど美味かった。」

 椅子に大きく体を預けながら、エリカが満足そうに言う。

「次はアイスクリームだよ~。」

 リッカが受け取ってきたアイスクリームをエリカに手渡す。

「…見た目は普通だな。」

「うん…。普通だね。匂いもしない。」

 シラタマの木の実のアイスクリーム。
 どう見てもただのコーンの上に白いアイスが乗っている。

「シラタマの木の実?だろ。木の実ってんならきっと甘くておいしいさ。」

 そういうと、エリカは頭からパクッとほおばった。

「………」

「…エリカちゃん?味はどう?」

「…ウーン。どこかで食べたことがある味っていうか…嗅いだことのある匂いっていうか…。不味くはない。」

 リッカもアイスをペロっと舐めてみる。
 口の中にスーッと透き通る味が広がった。

「あー…。確かにどこかで食べたことがあるような…。」

 ウーン、ウーンと首をひねりながら、二人はアイスクリームを少しずつ食べていく。
 不意にエリガが顔をパッと輝かせ、にんまりと笑う。

「わかったわかった!これは湿布の味だ!」

「しっぷ?しっぷってなに…?」

「湿布ってのは、人間が使う薬だ!張り薬ってやつだよ。」

「…エリカちゃん。張り薬は食べちゃだめだよ?」

「ばっ!ちげえよ!そういう意味じゃない!」

 リッカはクスりと笑うと、コーンを口の中へ放り込んだ。





「それじゃあエリカちゃん家まで送ってくれてありがとう。また明日ご飯食べに行こうね。」

「あい。じゃあな~。」

 エリカは羽を広げ飛び立ち、空に消えていく。

 リッカの家は、中央区の西のはずれにある森の中にある。
 リッカの一族がはるか昔に建てた大きな家は、現在リッカが一人で使っている。
 ほかの者たちは皆、中央のほうへ引っ越してしまった。

 軋んだ扉を開け進み、三階に一番奥の部屋にたどり着く。
 元は物置に使われていた小さな部屋には、小さな窓とベッドが一つだけ。

 白い羽衣を脱ぎ捨て、ベッドに横になる。

 窓から外を見上げると、遠く遠くにふわふわと浮かぶ建物が見える。


 羽で全身をくるみ、リッカは眠りに落ちていった。






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