異世界転生を司る女神の退屈な日常

禿胡瓜

第1話 「爬虫類は無口」

 
「あなたは不幸なことに命を落としてしまいました。」

「………」

「様々な想いがあると思いますが、あなたに選択を迫らなければなりません。」

「………」


 転生を司る女神リッカの本日最初の仕事の相手は……

 目の前の椅子の上にちょこんと居る緑色の生き物…トカゲだ。

 リッカはトカゲに手をかざし、生涯を一瞬にして把握する。


(善良ポイントは…102ポイント。)

「問いましょう。あなたは望んだ生き物へ生まれ変わる権利があります。」

「………」

「あなたは何に生まれ変わり、新たなる人生を歩みますか?」

「……?」


 すべての生き物には、「善良ポイント」というものが与えられている。
 どれだけ善良に生きてきたかによってポイント数が上下され、このポイントによって転生時の待遇が変わる。

「望んだ生き物に生まれ変わる」―――100ポイント

「ユニークスキルを付与され生まれ変わる」―――500ポイント

「記憶を保持したまま生まれ変わる」―――1000ポイント

 全うに生きてきた生物であれば、通常は100ポイント程所持している。


「あの……?」


 返答をしないトカゲに対して、さらに問おうとしたとき
 リッカの脳内に突然映像が流れた。


 リッカの脳内に流れてきた映像。
 それは巨大なトカゲ……大きな口に鋭い牙、背中に翼が生えた生物…。

「これは…ドラゴンですか?」

「……!」

「かしこまりました。少々お待ちください。」


 リッカはニコリとほほ笑むと、転生に適切な世界を探し始めた。
 異世界のバランスを保つため、ドラゴンだけが存在する世界。
 もしくは、ドラゴンを討伐することができる種族が存在する世界でなければいけない。

 リッカは適切な世界を見つけると、両手を広げ立ち上がりトカゲが望んだ生物へ生まれ変われるように祝福をかける。

「転生の準備が整いました。どうか次の人生も善良に生きてください。」

「………」


 トカゲの体が淡い緑の光に包まれ、少しずつ宙に浮く。

「……また会いましょう。」


 そうリッカがつぶやくと、トカゲは強い光に包まれ消えていった。

 ……世界にはまた暗闇が戻り、そこには一人の女神と椅子が二つ取り残された。




…………
………………

「ふぅ…」


 リッカはため息をつくと、ドサッと椅子に腰を下ろした。
 片手を突き出し、カップを召喚する。
 カップの中には甘く、熱い紅茶が注がれている。
 少しずつ喉を潤しながら、リッカは先ほどトカゲを消えていった位置を見上げた。

 飲み終えたカップを放り投げると、地面にたどり着く前に姿を消す。
 長髪を整え、椅子に座り直しリッカはつぶやく。

「……1115番、次の対象生物をお願いします。」


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