どうしょうもない男に

星 しらず

おれは、日本一の男になる

「あいつは、生きながら死んどるわ。」

「あの人のどこがいいんかウチにはさっぱり分からんかったわ。」

「あのクズ、まだ生きとったんかいな。」

あいつの知り合いから話を聞くと決まってこんな答えしか返ってこない。

あいつは、一体何者か。

なぜ、うちの姉ちゃんを殺したか。

僕はその真相を探るべく、
このドヤ街にやって来た。

しかし、どこもかしこも焼肉臭い街で辟易する。

僕のお気に入りのラコステのポロシャツにすっかり肉の焼いた臭いが染み付いた。
せっかく、七三にぴっちり分けてポマード塗りたくった髪も焼肉臭い。
おまけに行くとこ行くとこ椅子も机も黄ばんだとこばっかりや。

僕は、この街好かん、
何で姉ちゃんはこんなとこに住み着いてあのクソ男に殺されたんや。
アホな姉ちゃんや。

さっさと、芦屋に戻ってこれば良かったのに。

「おれは、日本一の男になる。」

そう言ったあいつを信じた姉ちゃんはどんどん破滅に向かっていった。
見てるこっちも面白いくらいに真っ逆さまに転がっていった。

落ちるのは一瞬や。

そのことを僕は姉ちゃんから学んだ。

そんな姉ちゃんの最期の言葉は、

「時男ちゃんに、甘納豆持ってったって…」

最期の最期まで姉ちゃんは時男というクズのことばかり考えていた。
自分は、頬もコケて、脚も腕もゴボウみたいになって、何も食べれんくなってるのに。

もう死ぬっていう瞬間まで時男のことばっかり。
けれども、肝心の時男は一度も病室に現れなかった。

ただの一度も。

そんなあいつを僕は断じて許さない。



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