攻略対象外だけど、好きなんです!

藤色

21 「落ちた桃」(2)



「よし、そろそろ休憩しようか!」

 砂原くんの一言で、私たちは手をとめる。

 ……ふぅ。だいぶ、片付いたかな…? 

「……疲れた……一年分は働きました……死にそう……」

 緑川くん、それは大袈裟じゃ……?

「じゃあ、次は特に傷のついてないのを11個選ぼうか。」
「……………。」

 あ、緑川くんが逃げた。
 砂原くんがツタで捕まえてる…。
 ……かわいそう。

 あ、11個選ばなきゃ!!
 ……これと……これと……これ。

「砂原くん、選び終わりました!綺麗な桃。」
「ありがとう、じゃあ洗いに行こうか。」
「洗いに……って、今から食べるのか?」
「うん。みんな巻き込んで休憩だ!」
「僕…もう一歩だって動けません……階段だって降りられないです……」
「階段は降りなくていいよ。あそこで洗おう。」

 砂原くんはそう言って、近くの泉を指さした。
 
 船の中に泉があるなんて、ここって本当に船なのかな?
って、感覚が麻痺しちゃいそう。

「こうやって表面についた土を落として……。はい、これで食べられる。」

 砂原くんから桃を受け取る。

 素手だから、産毛に気をつけないと……。

「は、はい!あわわわ……。」
「おっと!大丈夫か?」

 体のバランスを崩し、泉に落ちそうになる私を伏見くんが助けてくれる。

「落ちないように気をつけてね。下は泉だし死なないとは思うけど、変な魚がいるような船だからね。」
「……冷たくて気持ちいい……」
「湊ー?深海魚のエサになりたいのかなー?」
「働くくらいなら…魚になりたい……」

 緑川くん……。
 魚だったら緑川くんの可愛さが半減……いや、以外と可愛いかもしれないな……!

 いや、今はそんなことを考えている場合じゃない。
 美味しい桃のお菓子を作って、砂原くんからの好感度アップだ!!!
 そうと決まれば……

「桃、しっかりと洗わないといけないですね。……!!あ!!」

 つるりと綺麗に洗われた桃は、私の手から滑り落ちた。

 大変だ!砂原くんからの好感度アップが期待できる、大切な桃が……!

「「!!」」

 泉に落ちそうな私を庇おうと思ったのか、砂原くんと伏見くんは、私に手を伸ばす。

「「「うわああああぁぁぁぁぁぁ!!!」」」

 しかし、あと一歩のところで間に合わず、三人とも泉に落ちてしまった。







「けほっ、けほっ。」

 水が鼻や口に入って苦しい…。

「大丈夫か!?」
「は、はい……。けほっ。」

 あーあ、これじゃ砂原くんの好感度アップどころか、迷惑かけちゃったよ……。

「痛いところはない?俺に捕まって。」
「ありがとうございます……!」

 前言撤回!砂原くんに正当な理由でボディタッチできるなんて……。
 しあわせ〜〜!!!


 って、あれ?

「……………。……まさか、みなさんも魚になりたいと思っていたとは……」

 ん?緑川くん??
 違うからね、私たちは落ちたくて落ちたわけじゃないから!!!
 ってちょっと、緑川くん!?
 何で泉に飛び込もうとしてるの!?

「……………」

 あ、緑川くん、ついに飛び込んできちゃったよ……。

「はぁ……気持ちいい……」

 …………。

 うん。緑川くんが楽しそうでなによりです。

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