攻略対象外だけど、好きなんです!

藤色

6 「『世界』からの通達」

 翌朝。私はいつも通り朝早く起きて、料理人さんと一緒に朝食を作った。
ちょうど作り終えたところに、美澄くんが来た。

「おはようございます、紬様。」
「おはよう、雪月。朝早くからえらいね。…昨日はよく眠れた?」

 眠れたわけないでしょーー!?って言いたいけど……よく眠れたんだよね…。

「えらい、だなんて、そんなことないですよ。…ぐっすり眠れました。」
「それなら良かった。……あ、おはようございます、入須ご夫妻。」
「おはようございます。お父様、お母様。」
「おはよう、雪月。…紬くんも。」
「おはようございます。」

 お父様とお母様が来た。
 ………あ、ちなみに美澄様のところのご両親は侍女さんからの情報で、早朝から仕事があるようでもう帰ってるみたいと聞きました。私が朝食を作り始めた頃にもいないだなんて、美澄ご夫妻、すごいな……昨日結構酔ってたと思うんだけど。

 そして、みんなで食卓を囲む。
「それじゃあ食べようか。いただきます。」
「「「いただきます。」」」

 もぐもぐ……。美味しい。そういえば昨日、美澄ご夫妻はデザートのこと何もいってなかったみたいだし、美味しかった、ってことだよね。ちょっと安心かも。

「こうして並んでいると、雪月と紬くんは付き合っているみたいですね〜。紬くんなら、ウチも大歓迎です。」
「!?」

 ちょっと、お母様!?…なんかフラグっぽいの立てないでくださいよ、私は砂原くんと幸せになるんだから!

「お、お母様。私と紬様はそういった関係ではありませんわ!」
「そうですよ。僕と雪月はまだそういう関係ではありません。」

 紬くんも!まだ、とかつけないで!!

「あら、そうなの?……残念だわ。お似合いだと思ったのに。」

 はぁ、びっくりした。……お母様、意外とこういう系の話好きなのかも。気をつけないと。







朝食後、美澄くんと雑談していると、侍女から手紙を受け取った。

「雪月様、美澄様、手紙が届いておられます。…『世界』から、だそうです。」


 『世界』とは、有史から存在する政治機関のことで、知識量・情報網において、全ての国を凌駕する。
 存在理由としては、各国の軋轢の緩和、あらゆる軍事行為についての抑制。平たくいうと、平和を維持するための機関である。
 小規模な軍を所有しているが、暴力による支配を最も嫌っている。

    とかいう設定だったかな?


「『世界』から?僕たちに、何の用だろうね?……君の能力だけならわかるけど、僕には何の用があるんだろう?」

 もしかして、巨大飛行船に乗れってことかな?
 てことは、もうすぐ砂原くんと会えるんだ!やったー!

「私にも、わかりません……。とにかく、開けてみましょう。」

 美澄くんが封を開ける。

「これは……。“能力者のお二人には、世界平和のため、飛行船で旅をしていただきます。×月××日に、××草原においでください。これは、『世界』の決定事項ですので、守らなければ、世界中から追放させていただきます”……な、なんだって!」

 やっぱり巨大飛行船に乗れってことじゃん!やったー!
 砂原くんと会えるんだ〜!

「×月××日……二週間後、ですね。」
「…そうだね。僕にも通達が来るなんて、やっぱり『世界』はなんでもお見通しってことかな。」

  美澄 紬は私以外に未来予知の能力があることを伝えていない。
 だから、『世界』が能力者の“お二人”といったことに驚いている。
 私も初見だったら驚いていただろう。

 とにかく、砂原くんに会えることに違いはない。
 私はるんるん気分で準備を済ませた。







そして、二週間後。

「雪月様が行ってしまわれるなんて、私、寂しいです。」

 私の前で料理人さんが泣いている。

「もう、料理人さんったら。一生のお別れじゃないんですし、大丈夫ですよ。」
「ううっ、だって〜〜!」

 遠くから美澄くんが来る。

「やぁ、おはよう。雪月。君の洋装は見慣れないから、一瞬違う人かと思ったよ。……よく似合ってるね。うらやましいよ。」

 そこには、ゲームで見たことのある美澄くんが立っていた。白いシャツに上から薄手のカーディガンを羽織っている。
 う、美しい……!そして眩しい!

「紬様も、すごく似合っておられますよ。私の方が、うらやましいくらいです。」
「そうかな?そうだといいんだけどね。」

「それでは私たちは、行きますね。」

 私たちは料理人さんをなだめた後、迎えの方に連れられて、車へと向かった。




 そして無事に、私たちは迎えの車に乗りこんだ。

「街を出た先に『世界』の迎えが来ているそうだよ。しばらく車に揺られることになるから、具合が悪くなったら言って。」

 そう言って、美澄くんは私を労ってくれる。
なんて優しいんだろう。…でも私は、砂原くん一筋だから!

「ありがとうございます、紬様。紬様も、私にできることがあれば、おっしゃってくださいね。」
「ありがとう、雪月。」

 そして、しばらく沈黙が続く。先に破ったのは、美澄くんだった。

「なぜ…今なんだろう。」
「何が、でしょうか?」
「今頃になって僕たちを集めるなんて、おかしい気がしてさ。…『世界』は、何を考えているんだろう。」
「…情勢が緊迫化しているからでしょうか?今まで平等だったのに、列強国なんてものが出てきましたし…。それに、お父様が言っていました。極東の島国に大きな力が集まることを、列強国は良く思っていないんだ、と。」
「君は…怖くないの?これからのこと。」

 怖くない、といえば嘘になる。でも、平和な世の中になってほしいのは、変わらないことだから…。

「怖い…です。ですが、どこにいたって、することは変わりません。」

 結界の力で、一人でも多くの命を守る。
それは、砂原くんと結ばれることと同じくらい、大切なことだと思う。
…たとえ、ゲームの世界だったとしても。

「そう…だよね。」

 重い空気が流れてしまった。
 私は話を変える。

「…紬様。髪、伸びましたね。」
「そうだね。」
「どうして、伸ばしているのですか?」
「…願掛け…だよ。君は?」

 “願掛け”…それは、美澄くんが死なないため、だろうか。
 そういえば、雪月も“願掛け”のために伸ばしていた気がする。

「私も…願掛け、なんです。」

彼女の願いは、“美澄くんが死なないこと”。
私も、美澄くんには死んでほしくない。
その想いは、いつだって変わらないから…!


 重い空気はやはり少し苦手なので、砂原くんに会えることを考えながら、私たちは『世界』の飛行船へ向かった。
 



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