魔王軍幹部をやめてニートになった俺は貴族令嬢の婚約者にジョブチェンジしました
旅の始まり
「なぁ、ロータスってローゼンベルグからどれくらいの距離にあるんだ? 隣国だしここから距離はそんなにないのか?」
俺が前を進むネリアにそう聞くと、
「ん、ああ。いや確かに隣国ではあるんだが、ここはローゼンベルグの中でも東の方だ。ロータスがうちの国の西側にあると考えると意外に距離はある。歩きで考えるとざっと50時間はかかるかもしれないね」
「マジかよ……」
そんなに歩くのか。旅をすると言っていた以上ある程度の長丁場は覚悟していたが、初っ端からまさかそんなに歩かされることになるとは。魔王軍にいた時は移動手段に竜を利用していたし、歩き切れるかどうか今から不安である。
しかし何故かネリアは呆れたような表情でこちらを見、
「何やら馬鹿なことを考えていそうだから言っておくが、別に移動手段が歩きというわけではないからな? そもそもそんなことしたら君たちはともかく私の体力的に無理があるだろう」
言われてみれば確かにそうだ。俺でも体力的に不安を覚えるレベルなのに、俺より体力のないネリアがそんな手段を取るわけがない。
「だったらどうすんだ? 竜でも飼ってるのか?」
しかしネリアはこれにも首を横に振る。
「いいや、私は竜に乗れないからね。君が欲しいというなら買うが基本的に私は自分に使いこなせないものは買わない主義なのさ」
だからと続けるネリア。
「今回の移動手段は竜ではない。さて、それではあちらを見てくれたまえ」
そこで急に立ち止まり彼女はびしっと指をさした。その先に何があるのか見てみると、そこにいたのは商人の集団だった。彼らは忙しなく馬車に積み荷をいくつものせている。
「私たちの移動手段はアレさ。私たちはアレに乗り込む」
ネリアの発言にその場にいる誰もが絶句した。当然だ、あくまで彼女は王族の娘であり次期世界の頂点候補の一人。普通に考えれば国が総力を挙げて守らなければならない存在であるし、いつ山賊に襲われてもおかしくないような馬車に乗るというのはあまりにも危険すぎる。他のメンバーもどうやら俺と同じ考えだったらしい。
「あの、ネリア様……? 少々差し出がましいことを申しますが、一刻の王女が商人の馬車に乗るというのはいかがなものでしょうか? 私にはあまりにも危険すぎるように思われますが……」
するとネリアは怒るでもなくイザベラの言葉にうなずき、
「ああ、その通りだ。商人の道中というのは大金が移動する以上どうしても常に危険に晒されるし、何よりまず商人たちが人畜無害であるとも限らない」
「でしたらやはり……」
「だがリスクを承知のうえでも今回はそちらで行くことを選ばせてもらう」
まぁあのネリアが俺でも思いつくようなリスクを考慮に入れてないわけがないか。でもだとしたらなんなのだろう、そのリスクを無視してでも取りたいメリットというのは。
「簡単な話さ。今回私がしたいのは大々的な視察ではなく、個人的なお忍びの視察ということだよ」
ネリアが何を言っているのか俺にはさっぱり分からない。が、ルドルフはそれだけでおおよその事情を把握したらしい。
「成る程。大事にされて祭りでもされたら内情把握は不可能だしな」
ルドルフの呟きにネリアは首を縦に振り、
「流石は魔王軍の頭脳派担当。理解が早くて助かるよ」
そこでようやく彼らの言っていることを理解していると、急に左隣から肘でわき腹を突かれた。
「ええっと、つまりどういうこと?」
どうやらバニラは相変わらず理解できていないらしい。
「要はネリアは自分の目で内情を把握したいってことだろ。いくらあのノートがこれ以上なく精密に出来ているとはいえ、伝聞だけでは実情を完璧に把握するのは無理だ。けど同盟を結ぶ以上実情を詳しく知っていれば知っているだけ有利に立ちやすい。そのためには普段どんなものかを自分の目で見なきゃなんないけど、王族という立場で訪問しようとすればどんなに経済的に疲弊していても間違いなく無理して外面を整えようとする。だからあえて何も知らせず王族だと悟られもしないように商人の護衛に扮して入国するってことだろ」
割と懇切丁寧に説明したつもりではあるが、なおもバニラは納得がいっていないらしく、
「んーなんかリスク高過ぎる気もするなぁ……。確かに庶民の情勢知りたいからとか言って護衛一人もつけずに城下町に足運んでる王様もいるけどさぁ……」
いくらなんでも危機感足りな過ぎじゃないかそれは。ひょっとしたら足りないのは責任感の方かもしれないけど。
「ふふふ、平気さ。私はそいつと違って君たちを連れている。イザベラの戦闘能力がどのくらいかは知らないが、君たち三人だけでもそこらの山賊共を蹴散らすくらいであればお釣りがくるだろう。というか正直ミストだけでもやれるんじゃないかと思っているくらいだしね。ならば下手に信用できない護衛を増やして裏切りのリスク高めるより、信頼のおける少数精鋭で山賊の相手をした方が合理的だろう?」
流石のバニラもそこまで信頼されているとは思っていなかったらしい。彼女はネリアの言葉に苦笑いを浮かべながら、
「全くキミも身内贔屓激しいねぇ……。いいわよ、立ちふさがる敵は私たちが蹴散らしましょう」
バニラからそれだけ聞くと満足そうにうなずくネリア。当然俺の答えは最初から決まっているし、ルドルフの方も言葉に出さずとも覚悟は決めたらしい。
「それじゃあ行こうか。すまないそこの御仁、私たちはあなた方の護衛を引き受けたものだ。こちらが証明書になる」
ネリアが荷物の中から一枚の紙を取り出し、商人のうちの一人に向かって歩き出した。俺達も彼女の後に続く。
「ええっとどれどれ……。あ、本物ですね、了解いたしました。それでは改めまして、この度は我々の護衛を引き受けていただき誠にありがとうございます。私はこのキャラバンのリーダーを務めておりますオリバーと申す者です。よろしくお願いいたします」
そう言ってオリバーは頭を下げた。こちらもそれに倣って頭を下げた。にしても商人というともうちょいがめつそうなイメージがあったが、目の前に立つ男は意外にも人のよさそうな風貌をしていた。もし彼と違う形で出会っていれば、多少太った普通の中年との違いなど一切分からないだろうし、男が商人だなんて夢にも思わないだろう。
「一応依頼内容の再確認ですが、我々があなた方に求めるのはローゼンベルグからロータスまでの移動中の護衛、あなた方が我々に求める対価は移動中の食事及びロータス入国時にキャラバンの一味としてカウントする。以上でよろしいでしょうか?」
オリバーさんの言葉にネリアは笑みを浮かべて頷く。成る程、入国時の身分審査でも自分の正体をばらさないつもりか。本当に徹底している。
「それでは準備も整ったことですし出発しましょうか。アラン! カルム! 馬を出してくれ!! 私はアランの馬に乗り込みますので皆様はカルムの方にお願いします」
そう言うと彼は前の馬車に乗り込んでいった。どうやらカルムさんの馬車は後ろの方らしい。
「それでは私達も乗ろうか」
ネリアの指示に従い俺たちは次々に馬車へと乗り込む。そして俺たち全員が乗り込んだところで馬は走り出した。自由主義国ローゼンベルグの隣国、法治国家ロータスに向けて。
俺が前を進むネリアにそう聞くと、
「ん、ああ。いや確かに隣国ではあるんだが、ここはローゼンベルグの中でも東の方だ。ロータスがうちの国の西側にあると考えると意外に距離はある。歩きで考えるとざっと50時間はかかるかもしれないね」
「マジかよ……」
そんなに歩くのか。旅をすると言っていた以上ある程度の長丁場は覚悟していたが、初っ端からまさかそんなに歩かされることになるとは。魔王軍にいた時は移動手段に竜を利用していたし、歩き切れるかどうか今から不安である。
しかし何故かネリアは呆れたような表情でこちらを見、
「何やら馬鹿なことを考えていそうだから言っておくが、別に移動手段が歩きというわけではないからな? そもそもそんなことしたら君たちはともかく私の体力的に無理があるだろう」
言われてみれば確かにそうだ。俺でも体力的に不安を覚えるレベルなのに、俺より体力のないネリアがそんな手段を取るわけがない。
「だったらどうすんだ? 竜でも飼ってるのか?」
しかしネリアはこれにも首を横に振る。
「いいや、私は竜に乗れないからね。君が欲しいというなら買うが基本的に私は自分に使いこなせないものは買わない主義なのさ」
だからと続けるネリア。
「今回の移動手段は竜ではない。さて、それではあちらを見てくれたまえ」
そこで急に立ち止まり彼女はびしっと指をさした。その先に何があるのか見てみると、そこにいたのは商人の集団だった。彼らは忙しなく馬車に積み荷をいくつものせている。
「私たちの移動手段はアレさ。私たちはアレに乗り込む」
ネリアの発言にその場にいる誰もが絶句した。当然だ、あくまで彼女は王族の娘であり次期世界の頂点候補の一人。普通に考えれば国が総力を挙げて守らなければならない存在であるし、いつ山賊に襲われてもおかしくないような馬車に乗るというのはあまりにも危険すぎる。他のメンバーもどうやら俺と同じ考えだったらしい。
「あの、ネリア様……? 少々差し出がましいことを申しますが、一刻の王女が商人の馬車に乗るというのはいかがなものでしょうか? 私にはあまりにも危険すぎるように思われますが……」
するとネリアは怒るでもなくイザベラの言葉にうなずき、
「ああ、その通りだ。商人の道中というのは大金が移動する以上どうしても常に危険に晒されるし、何よりまず商人たちが人畜無害であるとも限らない」
「でしたらやはり……」
「だがリスクを承知のうえでも今回はそちらで行くことを選ばせてもらう」
まぁあのネリアが俺でも思いつくようなリスクを考慮に入れてないわけがないか。でもだとしたらなんなのだろう、そのリスクを無視してでも取りたいメリットというのは。
「簡単な話さ。今回私がしたいのは大々的な視察ではなく、個人的なお忍びの視察ということだよ」
ネリアが何を言っているのか俺にはさっぱり分からない。が、ルドルフはそれだけでおおよその事情を把握したらしい。
「成る程。大事にされて祭りでもされたら内情把握は不可能だしな」
ルドルフの呟きにネリアは首を縦に振り、
「流石は魔王軍の頭脳派担当。理解が早くて助かるよ」
そこでようやく彼らの言っていることを理解していると、急に左隣から肘でわき腹を突かれた。
「ええっと、つまりどういうこと?」
どうやらバニラは相変わらず理解できていないらしい。
「要はネリアは自分の目で内情を把握したいってことだろ。いくらあのノートがこれ以上なく精密に出来ているとはいえ、伝聞だけでは実情を完璧に把握するのは無理だ。けど同盟を結ぶ以上実情を詳しく知っていれば知っているだけ有利に立ちやすい。そのためには普段どんなものかを自分の目で見なきゃなんないけど、王族という立場で訪問しようとすればどんなに経済的に疲弊していても間違いなく無理して外面を整えようとする。だからあえて何も知らせず王族だと悟られもしないように商人の護衛に扮して入国するってことだろ」
割と懇切丁寧に説明したつもりではあるが、なおもバニラは納得がいっていないらしく、
「んーなんかリスク高過ぎる気もするなぁ……。確かに庶民の情勢知りたいからとか言って護衛一人もつけずに城下町に足運んでる王様もいるけどさぁ……」
いくらなんでも危機感足りな過ぎじゃないかそれは。ひょっとしたら足りないのは責任感の方かもしれないけど。
「ふふふ、平気さ。私はそいつと違って君たちを連れている。イザベラの戦闘能力がどのくらいかは知らないが、君たち三人だけでもそこらの山賊共を蹴散らすくらいであればお釣りがくるだろう。というか正直ミストだけでもやれるんじゃないかと思っているくらいだしね。ならば下手に信用できない護衛を増やして裏切りのリスク高めるより、信頼のおける少数精鋭で山賊の相手をした方が合理的だろう?」
流石のバニラもそこまで信頼されているとは思っていなかったらしい。彼女はネリアの言葉に苦笑いを浮かべながら、
「全くキミも身内贔屓激しいねぇ……。いいわよ、立ちふさがる敵は私たちが蹴散らしましょう」
バニラからそれだけ聞くと満足そうにうなずくネリア。当然俺の答えは最初から決まっているし、ルドルフの方も言葉に出さずとも覚悟は決めたらしい。
「それじゃあ行こうか。すまないそこの御仁、私たちはあなた方の護衛を引き受けたものだ。こちらが証明書になる」
ネリアが荷物の中から一枚の紙を取り出し、商人のうちの一人に向かって歩き出した。俺達も彼女の後に続く。
「ええっとどれどれ……。あ、本物ですね、了解いたしました。それでは改めまして、この度は我々の護衛を引き受けていただき誠にありがとうございます。私はこのキャラバンのリーダーを務めておりますオリバーと申す者です。よろしくお願いいたします」
そう言ってオリバーは頭を下げた。こちらもそれに倣って頭を下げた。にしても商人というともうちょいがめつそうなイメージがあったが、目の前に立つ男は意外にも人のよさそうな風貌をしていた。もし彼と違う形で出会っていれば、多少太った普通の中年との違いなど一切分からないだろうし、男が商人だなんて夢にも思わないだろう。
「一応依頼内容の再確認ですが、我々があなた方に求めるのはローゼンベルグからロータスまでの移動中の護衛、あなた方が我々に求める対価は移動中の食事及びロータス入国時にキャラバンの一味としてカウントする。以上でよろしいでしょうか?」
オリバーさんの言葉にネリアは笑みを浮かべて頷く。成る程、入国時の身分審査でも自分の正体をばらさないつもりか。本当に徹底している。
「それでは準備も整ったことですし出発しましょうか。アラン! カルム! 馬を出してくれ!! 私はアランの馬に乗り込みますので皆様はカルムの方にお願いします」
そう言うと彼は前の馬車に乗り込んでいった。どうやらカルムさんの馬車は後ろの方らしい。
「それでは私達も乗ろうか」
ネリアの指示に従い俺たちは次々に馬車へと乗り込む。そして俺たち全員が乗り込んだところで馬は走り出した。自由主義国ローゼンベルグの隣国、法治国家ロータスに向けて。
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