The Blind's man

ぱんだ

episode1


2002.10.14.am06:30 西宮誠也side
 

( 誰が目覚まし時計の設定時間を30分も送らせたんだ…… )

枕元に置かれた愛用の蛍光色のスタイリッシュなそれを前に西宮誠也が吐く息は重い。

時間をずらしたのが意地の悪くやんちゃな自分の兄であることは間違いないが、何を目的にこんな嫌がらせじみたことをするのか西宮には皆目検討もつかなかった。

しかしいつまでも犯人探しをするような時間もなく、現在の彼の脳内はといえばあと20分で発車する電車に乗らなければ部活に遅れ、すべてのメニューにおいて人の倍させられることになってしまうという焦りに支配されていた。

家から駅までは徒歩15分。中学1年から陸上部に所属し鍛えた彼の脚をもってすれば電車には余裕で間にあう。

急いで冷蔵庫に入っていた母の愛のこもった手作り弁当をスポーツバッグに入れ、部活着も引き出しからひっぱり出して投げ入れ、テーブルの上においてあったコッペパンを掴んで家を飛び出す。

さすが自慢の脚というべきか、わずか3分で家と駅の中間地点まで辿り着いた西宮は、少しの間走るのをやめて休憩する。

ふと周りを見渡すと、街全体にコンビニが1軒しかないような田舎ではあまり見かけることのない真っ黒で洗いたてのような光沢のあるバンが向かい側の歩道付近にハザードをつけて止まっている。さすがにどんな人が乗っているのか気になったが、走るために眼鏡を外していた西宮にはそもそも人が乗っているのかどうかすらわからなかった。

2分ほど時間が経過していたことを確認した彼は再び走ろうと脚を踏み込む。

……が。

その瞬間、向かい側にあるバンが急発車し、他に車が通っていないのをいいことに大きくハンドルを切り、対向車線を西宮を追うように走り出した。

さすがに何か危険な空気を察知した西宮は、もっとスピードをあげようとするが、それよりも早く黒い車が彼の行く手を阻むかのように彼の眼前に横付けされた。

驚きと不安とで足を止めてしまった西宮の前に車から降りてきた2人の男が立ち塞がり1人が彼の腕を捕まえる。

「ってめえら、誰だよ!?……っっ!!」

こんなことに巻き込まれてまで車にどんな人が乗っていたのかは知りたくなかったが、降りてきた2人の男はどちらも金髪で、両耳に銀のピアスをはめていた。そして西宮の腕を掴んでいる方は何か武道でも習っているのか、異常に力が強い。必死に抵抗するも1対2ではそもそも分が悪く、みぞおちを殴られ呻いている間にやすやすと車の中へ投げ込まれてしまった。
 
 
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『………………ゲームサンカシャ,ゲンザイゴメイ。
       ウチワケ………オトコサンメイ,オンナニメイ。』


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