なんでも【美少女化】するスキルでハーレム作ります ~人も魔物も無機物も俺も!?~

八木山蒼

第27話 災厄、再び

 重い門を抜けた先、別世界が広がっていた。
 広い敷地に点在する建造物。そのひとつひとつが大小問わず荘厳かつ絢爛、白無垢の外壁に金や銀で装飾がなされ、宗教的な意味のある図や像が随所に彫刻されている。そしてその最奥にどんと鎮座するのがセントヘレンズ大聖堂……直線的な造形が美しい、巨大な聖堂。頂上にある大鐘楼は黄金に輝き、女神イスリエラのマークである翼を織りなした印が正面で人々を見下ろしている。

 俺やルナル、何よりも神官様はその存在感に一時圧倒され足を止めたがインフェルノ、マグナム、そしてもう1人は平然と歩を進めた。

「あなたは前々から無茶苦茶な人でしたが……まさか女子になって現れるほどとは思いませんでしたよ」

 マグナムを睨みつつ声をかけるのは眼鏡をかけた凛々しい青年。純白の法衣に身を包み、その装束からそれなりの地位にあることがわかる。この聖域で帯刀を許されていることからもそれは伺えた。
 彼はセントヘレンズ大聖堂の警護を一手に担う聖騎士団のリーダー、ポンド。マグナムとは旧知の仲らしく、少女化したマグナムが無事に本人だと認められたのも彼のおかげだった。

「悪くないぜ女のコの体もよ、なんか軽いしいい匂いするし。せっかくだしお前もどうだ? いーい女になりそうじゃん」

「やめてくださいよ、神に仕える者として神から与えられた身を偽るのは背信にあたりかねません」

「その女神サマの力がスキルなのにか?」

「……とにかく、私は女体化なんかに興味はありませんからね」

「つれねぇなあ」

 ポンドとマグナムは凸凹コンビだが息はあっている。マグナムはつくづく不思議な人間だ。

「マグナムさんのご友人方、あまりマグナムさんから離れないようお願いします。あなた方を通したのはあくまでも特例ですので」

 ポンドに促され、慌てて俺たちもマグナムたちに続いた。マグナムのおかげで入ることはできたが俺らはあくまでも部外者、実際見慣れない少女の群れに聖堂の人間たちからの視線が痛かった。

「それで、その【美少女化】スキルの解除法を求めてここまで来たそうですね。たしかにここセントヘレンズ大聖堂は女神イスリエラ様に関する書物なども多く、スキルについて調べるには適していると言えるでしょう。ではまずは大書庫に……」

「いやぁポンド、門ではそう言ったがよ……実は俺らの目的はもうひとつあるんだよ」

「え?」

 マグナムはニヤりと笑い足を止め、ポンドも必然立ち止まる。そこはちょうど周囲に人が少なく、会話を聞かれ辛いような地点。かつ平然と話すために怪しまれることもないような……マグナムの老獪さが伺える。
 そしてマグナムはしれっと切り出した。

「大司教に会わせな。あのハゲにな」

 その言葉にポンドの顔が驚愕に歪んだ。

「さ……サンノ大司教に!? な、なぜ? いかにあなたといえども……」

「悪いがポンド、今回はちとシャレにならねえかもしれねえんだ。俺とインフェルノが暴れてでも通してもらわなくちゃ困る」

 対象的にマグナムはいつものにやにや笑いを消していた。少女化した顔はかわいらしいが、それでいてなお隠し切れない威圧感が瞳から滲む。ポンドも言葉を詰まらせていた。
 ……やがて、ポンドは頷いた。

「わかりました。あなたがそこまで言うのならば……しかし、相応の礼はお願いしますよ?」

 その言葉を聞きマグナムに平時の笑みが戻った。

「わあってるよ、いーいウィスキーをおごってやるぜ」

「私はワインの方が好みです、レゴーニュの38をいただきたいですね」

「足元見るなあお前……さっ、行くぞてめえら」

 マグナムとポンドは何の気なしに歩き出し、俺らもそれに続いた。改めてマグナム、そしてインフェルノがいてよかったと思う。
 これは……人類の危機にも繋がりかねないことだから。



 それは今から半時ほど前に遡る。
 俺はインフェルノとマグナムにより俺を狙う謎の3人組アルパ、リックス、トオイを捉え、別れていたルナルと神官様も呼び街外れで尋問をしていた。

「この者たちがセイを狙っておったというのか」

「そんな危ないことになってたとはね。私たちに黙ってるなんで意地が悪いじゃないセイ」

「敵を欺くにはまず味方からと言うからな」

 俺らの前で3人組はまだ気を失っていた。両手足を縄でしっかりと縛り、武器等隠し持っていないことは確認済みだ。スキルも問題ないとわかっている。
 というのも、内通者がいたからだ。

「ていうかこの子は?」

 ルナルが指さしたのはインフェルノと手を繋いでいる幼女。布一枚だけ着てるような簡素な服装をしていて、髪は槍みたいに逆立った独特の形状をしている。

「この子はこっちのアルパっていう女が持っていた武器でな……戦略上やむを得ず【美少女化】した。でもおかげでこいつらのスキルも全部わかったんだよ、なあブリュ」

「うむ! ブリュ、全部おしえたぞ!」

 ブリューゲルの槍という名前らしいので便宜上ブリュと呼んでいる幼女はなぜか誇らしげだった。なんでも貫き通す槍の性質が出たのかブリュは真っ直ぐで嘘が嫌いで、質問すればペラペラとなんでも話してくれた。ついでになぜかインフェルノに懐いている。

「しかし本当のところはこ奴らに聞かねばわからない。起こすぞ」

 インフェルノが進み出て手をかざす。すると特殊な音波が放たれて、それを聞いた3人は瞬く間に目を覚ました。

「んはっ!? あ、あれ、ここは……」

「ぐっ……ちっ、やられたか」

「完璧に拘束されちゃってますね。僕のスキルも使えないよう目隠しまで……」

 3人はことのほか冷静だ。やはり陰で暗躍するようなエージェント、敵に捕らえられることも想定内なのかもしれない。

「お前らには色々と訊かねばならないからな。言っておくが嘘は無駄だ、俺が『音』を聞けば嘘かどうかくらいわかる。たとえ答えずとも心の臓の速度でわかる」

「インフェルノ・シンフォニー……さすがねえ。こうなっちゃ私たちもどうしようもない、か」

「アルパ! きさま、よもやあきらめめてじょうほうを売るというのか!?」

「だってしょうがないじゃない、拷問されるよりスマートでいいわよ。どんな拷問でも喋らない自信はあるけどね。嫌ならさっさと縄抜けでもしてみせなさいお嬢ちゃん」

「こどもあつかいするな! ぐぬぬ……」

「まあまあお2人とも、セイさんたちはおとなしくしていればひどいことはしませんから」

「そろいもそろってきさまら! おれはなにも話さんからな!」

「ご自由に。じゃ、私は喋らせてもらおうかしらね」

 アルパはさばさばと割り切ってしまったようだった。俺らとしても向こうから話してくれるに越したことはないので話してもらうことにする。嘘をつけばインフェルノがすぐに看破するらしい。

「では聞くが、お前らの目的はなんだ?」

「私たちの目的はセイ・ブルームの拉致、というよりは【美少女化】スキルの確保ね。クローバーの街であなたを見つけて、ずっとチャンスを伺ってたのよ? このリックスが子供にされたりしながらね」

「【美少女化】スキルの存在はいつ知ったんだ? 冒険者ギルドに行くまでは、そんなおおっぴらには使ってないはずだが」

「それは知らないわ、私たちはボスからそう命令されてただけだから。ボスもスキルのだいたいの出現地を教えてくれただけで、あなたがその持ち主だってのはクローバーの街で初めて知ったんだけどね」

「ボスってのは誰なの? スキルの出現を知れるなんて……並の人間じゃないわ」

「そうね、これ言ったら私消されるかもだけど言うしかないわね。ここセントヘレンズ大聖堂の重鎮、サンノ大司教よ」

「さ、サンノ大司教!?」

「知ってるんですか神官様」

「知ってるもなにも、大司教様はワシら神職のトップのようなお方じゃ。言わずもがな聖堂の主は法王様じゃが、大司教様は神に仕えるものを束ねるいわば人間としての頂点なんじゃよ。よもやそのような方が拉致など計画するとは、にわかには信じ難いが……」

「大司教様の目的は私たちも知らないわ、私たちはあくまでも実行部隊で教団の闇の手足。命令のまま動くだけ。まっ、イスフィール教団も色んな闇があると思ってもらえばなにかと想像はつくでしょ」

「本当に拉致の目的については何も知らないのか?」

「少なくともボスは私たちには何も教えてくれなかったわね。でもだいたい想像はつくわよ、あなたのスキルは強力すぎるもの。意外と手口が荒っぽいだけで、目的は社会を混乱させないためとかなのかもね。実際あんたのスキルで困ってる人が大勢いるんでしょ?」

「うぐ……そこを言われると弱いな」

「まあとりあえず会いに行ってみればいいんじゃない? どの道……」

 その時だった。

「うっ!?」

「ぐっ……!?」

 突然アルパ、そしてリックスが呻き声を上げた。そしてその体に異変が起こり始める。

「な、なにこ……うぐううっ!? ううっ、く、くるし……」

「か、からだが……があああああっ!?」

 拘束された手足でもがくように必死にあえぐ。その肌に黒紫色のアザのようなものが浮かび始めた。俺はハッと気付きインフェルノを見た。

「インフェルノさん! これって……」

「ああ、間違いない。俺が命を落としかけた『呪い』……いや、これは俺のより数段強力! すぐに対処せねば死に至るぞ! やれ、セイ!」

「は、はいっ!」

 俺はすぐにスキルを発動した。アルパたちの体が光に包まれ【美少女化】が発動する。
 すでにスキルがかかっているリックスは変わらず、アルパはただ年齢が下がった程度の容姿に。だがその両者の上に、どす黒い肌と紫色の禍々しいタトゥーを光らせる、『呪い』を具現化した少女が1人ずつのしかかり、その首に爪を立てギリギリと締め付けていた。

「マグナム!」

「おおよ!」

 すかさずマグナムが飛び掛かる。『呪い』2人はマグナムに気付き振り返ったが、その瞬間にマグナムの拳を叩きこまれ、醜い呻き声と共に気を失った。
 わずかな時間とはいえ『呪い』の影響は大きかったのか、アルパもリックスも完全に気を失っていた。今まさに死に瀕した2人、そして倒れ伏す『呪い』たちを見て俺らは絶句していた。

「な、なんで……人間の世界では絶対にないはずの『呪い』が……今!?」

「わからん。わからんが……少なくとも、ただごとでないということはわかる」

「どーもこりゃ時限式っぽいなあ……あらかじめ体に仕込んであって、アルパって女がぺらぺら情報を喋ったとこで発動したって感じだ。すぐに対処できたからいいが、この2人を殺したら俺らにも牙を剥いただろうぜ」

「つまりこの呪いを仕込んだのは……サンノ大司教?」

 信じがたい事実だったが、それ以外考えられなかった。しかしなぜ大司教ともあろう人間が『呪い』を……いやそもそもどうやって? 人間が住む世界には存在せず、人間が扱うなど絶対にできないはずの『呪い』を証拠隠滅の為に使うなど……

「……前に、森の魔女に聞いたことがあるんです。【美少女化】スキルは過去に魔王との戦争で人類が滅亡の危機に瀕した時、子孫を絶やさないようにするためのものかもしれない、と……」

「魔王……『呪い』……最悪な感じで繋がってきやがったな」

 さらにその時、ルナルが気付いた。

「待って。トオイって子がいないわ」

「え? ほ、本当だ」

 いつの間にかトオイがいなくなっていた。両手足を固く縄で縛り目を発動条件とするスキルも封じていたはずなのに、俺らが『呪い』に気を取られている隙に影も形もない。

「とにかくだ。アルパが言っていた通り、行かねばなるまいな」

 インフェルノがまとめるように断言する。異論を唱えるものはいなかった。

「ええ、行きましょう大聖堂へ……サンノ大司教のもとへ」

 俺が持つ力。その存在の大きさが、俺の中で震えに変わりつつあった。

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