なんでも【美少女化】するスキルでハーレム作ります ~人も魔物も無機物も俺も!?~

八木山蒼

第22話 美少女師弟

「きゅうじゅう……ななっ! きゅうじゅっ……はちっ! きゅうじゅ、きゅ……ひゃくっ!」

 木の棒の素振り100回を終え、マットはぐったりと倒れ込んだ。その傍らに立つ三白眼の少女……Sランク冒険者インフェルノがふむと頷く。

「100回でこの消耗か。まったく鍛錬していない割には十分だろう。しかし【剣聖】スキルを十分に使いこなせるとは言い難い」

「ぜえ、で、でしょうね、はあっ……」

「無理をして体を壊すといけない、しばし休憩だ」

「は、はいぃ……ふう……」

 パッと見の年齢差はマット>インフェルノに見えるが、実際には年齢も経験も大きくインフェルノが勝っている。マットは仰向けに倒れ、そのでかい胸を揺らしながら息を整えるのだった。

 ここは俺らの拠点の前、約束通りマットはインフェルノに剣の修行をつけてもらっているのだ。俺はルナルといっしょにマットの特訓の様子を見ていた。

「体力ないのねーマット。私も人のこと言えないけど」

「いや、あの木の棒を100回振るのは結構疲れるぞ。しかしあれどっかで見たような気がするな……」

「とにかくマットにはうちの主戦力になってもらわないと困るのよ。主に経済的事情で」

「ああ、俺のスキルは使う度に養い口が増えるからな……」

 俺はちらりと家の方を振り返る。窓から覗く家の中では、ゴレムが小さな体を使って一生懸命家事のお手伝いをしていた。

「そしてルナル、経済的にいえばこのスキルの解除法発見も大事なんだが、成果はあったか?」

「そこなのよねー」

 俺の【美少女化】スキル解除法はルナルが見つけることになっている。というかルナルは自分の魔術師としてのプライドを賭け、解除法を見つけるために俺らのパーティにいるのだ。

「ベルディアーデさまの話も聞いて、スキルのメカニズムはおおむね解明できてきてるのよ。基本的にそのスキルは変身系魔法と同じ理屈……物質の魔力転換、そこからの再形成で成り立っているわ」

「魔力……転換? 再形成?」

「まあ理解しなくてもいいわ、後で蝶の完全変態でも本で調べときなさい。実際メカニズムがわかったところで解除方法が見つかったわけじゃないし……むしろ逆ね」

 ルナルは困った顔をしていた。

「断言するけど、このスキルは時間経過で自然に解けたりはしないわ。またセイ、あなたの手から離れて解かれることもない。他の変身系魔法の上書きも許さない、端的に言ってもんのすっごく強力なスキルってこと! 私も厄介なものに挑戦しちゃったわ」

「まあ、あのベルディアーデでも解けるとは言わなかったしな……諦めるか?」

「冗談! 私は天才美少女魔術師、壁の高さに諦めてちゃ魔術師なんてやってらんないわ。登り続ければどんなに高くてもいずれ届くのが私の持論よ。これからもみっちり付き合ってもらうからね!」

「頼もしいな、よろしく頼むぞ」

「それに私的には解けなくてもそれはそれで……うひひ」

「ん?」

「なーんでもないわ! うん」

 俺とルナルの話がちょうど一段落した時、ふと、俺は声に気付く。

「師匠! しーしょーおー! どこですかー?」

 聞き覚えのある少女の声だった。マットに次の訓練をさせようとしていたインフェルノがぴくりと反応し声の方を向く。するとそちらから、思わぬ人物が姿を現した。

「師匠? この辺りにいるって聞いたんだけど……」

 ひょっこりと現れたのは金髪ツインテの小柄な少女。少女は顔を出し俺らを見るなりあっと声をあげた。

「あ、あんたら! なんであんたらがここにいるのよ!?」

「いやここ俺らの拠点で、お前の方がやって来たんだけど」

「うるさいわ! そこのバカ乳もこれ見よがしに揺らして! 今に見てなさい、絶対に越えてやるんだから!」

 金髪ツインテ少女こと、フランは俺らを見てぷりぷり怒る。この少女、なぜだか俺らに対し強い対抗心を持っているのだ。まあその半分はマットの巨乳と自身の盆地を見比べてのことなのだろうけど……

「今はあんたらに構ってる暇はないわ、長い間仕事に行ってた私の師匠が帰ってきたんだから! 入れ違いになって会えなかったんだけど、この辺りにいるらしいのよ。師匠がいればあんたらなんてチョイよチョイ!」

 師匠なる存在を語り勝ち誇るフラン。とその時、ふいにインフェルノが彼女の前に進み出た。

「フラン。その高慢な態度も相変わらずだな」

「はあ? 何よあんた、あんたもこいつらの仲間なの?」

「俺が誰か語るより、見せた方が早かろうな」

 インフェルノはマットが持っていた木の棒を奪い取ると、それをフランに投げ渡した。インフェルノ自身も持っている木の棒を構える。

「構えろ。久々に修行をつけてやる」

「はああああ? なんであんたが……」

「構えぬならばそれでもよい。行くぞッ!」

「え、えっ!?」

 その後は一瞬だった。インフェルノさんが飛び掛かり棒を振る。フランも慌てて受け止めるがインフェルノは衝突寸前で棒を引き構えを変えると懐に飛び込み、怯ませた隙にフランの背後をとる。フランがなんとか追いつこうと振り返ると同時に胸に棒を突きつけて、そのまま押し倒した。

「ひ、ひっ……ま、まさかあんた、いやあなたは……」

 木の棒を突きつけられ組み伏せられたフランの顔が引きつる。その上でインフェルノは微笑した。

「久しいなフラン。どうだ、顔はわからずとも太刀筋を見て思い出したか」

「は、はい、もちろんです! 師匠!」

 【美少女化】しまるっきり姿の変わってしまった師の顔を、それでも衰えぬ剣の腕に怯えながらフランは見つめていた。

「それにしても……」

 仰向けに倒れているとよくわかる。フランのそれは哀れなほどに薄っぺらだった……

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