なんでも【美少女化】するスキルでハーレム作ります ~人も魔物も無機物も俺も!?~

八木山蒼

第12話 初仕事はドラゴン退治

 ベナスの街から乗り合い馬車で1時間ほどで、俺らはミスリル山に辿り着いた。
 ミスリル山はゴツゴツとした岩山で、希少な鉱石が採れることから度々冒険者や鍛冶師などが訪れる。魔物もそう多くない絶好の地だ。

 ミスリル山の周辺には町があり、山へ入る者たちを相手に商売をして発展している。山はその街の所有物でもあり、入山には入山料と許可がいる。なので山の入り口は街から直通の門と決まっているのだ。

 俺らがその門にやってくると、見張りの人に止められた。

「ちょっと待った、君たち。今ミスリル山は入山禁止だよ」

「ドラゴンが住み着いちゃってね、危険だから入山を禁止にしているんだ。今ベナスのギルドに依頼しているから、それが解決してから……」

「あ、それ、俺たちです」

 俺は見張りの人にギルドから貰った依頼書を見せた。見張りの人が驚いた顔をする。

「君たちが冒険者だったのか! 大丈夫かい、女の子だけで」

「まあなんとかなりますよ。そのドラゴンについて何か知ってますか?」

「ああ、あのドラゴンは大きさはさほどじゃあないんだが、人を見つけると一直線に襲い掛かってくるんだ。不気味な唸り声を上げながらな」

「赤い鱗をしていて、普段は山の中腹にいるらしい。だが人間の臭いを感じると飛んでくるぞ。気を付けてな、お嬢ちゃんたち」

「ああ、ありがとう」

 見張りの人に別れを告げ、俺らはミスリル山へと入っていった。



 ミスリル山には一応の道はあるが、基本的には岩山の登山だ。傾斜もあれば足元も不安定で、思いの外登山自体が大変だった。

「はあっ……お、女の子になって、体力落ちてるの、忘れてた……ふぅ……」

「俺は太ってた頃よりはまだいいが……む、胸が、重い……」

「ワシは元と同じくらいかの……いずれにせよ、しんどい」

「う、運動不足を、ひしひしと感じるわ……」

 俺、マット、神官様、ルナルは20分ほど歩いただけでもう息も絶え絶えである。

「大丈夫かセイ? よかったら背中に乗せて走るぞ」

「おおー、マットすげえ。息する度にすげえ。マットすげえなー」

 元気なのは狼と猿のフェンとモンチー。魔物なり動物なりの特性を残す2人は身のこなしが軽いのだ。
 フェンは背中に乗せてくれると言っているが、狼の体ならともかく今フェンにまたがったら絵面的にかなりきわどい。

「お……あそこにいい岩陰があるぞ。休んでいこう」

 ちょうどよく山道に大きな岩が影を作っている場所があったので、俺らはそこで一休みすることにした。

「はあっ……体力のなさは深刻だなこりゃ。マットは俺らよりは元気そうだな」

「設定的にセイより年上みたいだし、痩せてるからな。一部を除いて」

「一応あなたがパーティで剣士の役割なんでしょ? せめてあなただけでも体力つけないとね」

「冒険者も大変じゃのう」

 岩陰で身を休める。フェンとモンチーだけは元気にじゃれていた。
 今日は見事なまでの晴天で日差しも強く、岩の影もくっきりと映し出されている。せめて曇りならもう少し動きやすいのだが……そう思って影を見つめていると。
 突然、岩の影がにゅっと伸びた。

「え?」

「どうしたセイ」

「いや、この岩の影が今、変に……」

 恐る恐る振り返る。岩の影が伸びたということは……まさか。
 俺らが背にした岩の上に、巨大なドラゴンが乗っていた。赤い鱗をした、元のフェンよりもずっと大きい巨大な竜。俺はそれとバッチリ目を合わせてしまった。爬虫類の瞳が俺を見据え、引き裂かれたような顎がぺろりと舐められた。
 他の皆もその存在に気付き、一瞬硬直する。そして沈黙の後。

「ド、ドラゴンだああああーーーーーっ!」

 俺が絶叫すると同時に、俺らは一斉に逃げ出した。今来た山道を必死で駆け降りる。疲労など吹っ飛んでいた。

『グルルォォオオオオオーーーーーーーーッ!』

 だがドラゴンは咆哮を上げながら翼を広げ追ってくる。到底逃げ切れる速度じゃない。

「セ、セイ! 何してんだ、お前のスキル!」

「わ、わかってるけど、やっぱいざ面と向かうと……! ええい!」

 俺は意を決して振り返りドラゴンと対峙した。またドラゴンと目が合って、ドラゴンは一直線に俺へと滑空して来る。ぶつかればひとたまりもない、俺は恐怖心を抑えつつスキルを発動した。

「くらえーッ!」

 間一髪、ドラゴンの体は光に包まれ、その大きさがみるみる内に縮んでいく。だが俺へと向かってくる速度は変わらない。間に合わなかったか? そんな予感が頭によぎる。
 直後、俺の体を衝撃が襲い、俺は倒れた。が、思ったような惨劇はなく……俺の全身を包み込んだのは、柔らかな感触だった。

「つかまえたー! やっと逃げないでくれる人間と会えたよー。ねえねえあなたお名前は? どこから来たの? 僕はねージークンって言うんだー」

 俺に抱き着いた少女はハイテンションでまくし立てた。その体が俺に密着して感触が直に伝わってくる。特に胸同士が触れ合っている部分はなんというかえもいえぬ……とにかく!

「は、離れてくれ、苦しい」

「あ、ごめんねー」

 背中が痛いので押し返すと、少女はあっさりと引いてくれた。俺も起き上がる。

「あれ、僕の体……?」

 そこでようやっと少女は自分の体の異変に気付いたらしかった。
 そこにいた少女は赤い髪をしていた。髪は短めでどこか無造作、純朴そうな顔をして体格も小柄。だがしかし、赤い髪を破るようにして2本の角が天を衝き、背中には鳥とも蝙蝠ともとれない翼、ぺたんと座る後ろには赤い鱗の太い尻尾がずるりと生えていた。格好はなぜかビキニアーマー。尻尾と同じ質感と色をしていた。

「わあ、僕人間になってる! すごーい! これ、君の力なの? すっごいねー」

「あ、ああ……」

 赤い髪の少女は自分の体をあちこち見て、尻尾をチロチロ翼をぴくぴくさせながらはしゃいでいる。先程の緊迫感とのギャップに俺はめまいがしそうだった。

「な、なあ。お前、さっきのドラゴン……なんだよな?」

「え? うんそうだよ、僕はジークン! やっと人間の友達ができたよ、よろしくね!」

 凶暴なはずのドラゴンはそう言って、純粋そのものの笑顔を見せたのだった。

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